見出し画像

おやじパンクス、恋をする。#119

 彼女が69に来てから数日間、俺の店はありえねえくらいに盛況だった。

 もともと小せえカウンターだけの店だが、それが早い時間から朝方までずっと埋まってるような状態で、それどころか立ち飲みの客までいるような状態で、なんだよこれって思ったんだけど、世の中では連休だったんだってな。近所の公園で、割と有名ドコロが来る野外イベントをやっていたことも影響してたみたいだ。

 バーテンってのはおかしな職業で、やってる作業としては酒を作るってことなんだが、実際のところそれは大した仕事じゃねえ。

 店に来た客とどんな時間を過ごすかを考えながら、大げさに言えばこの空間をプロデュースするっていうか、まあそれはかっこつけすぎだけど、とにかく俺の店みたいな小せえところは特に、客とのコミュニケーションが一番の仕事なわけだ。

 だけどどうしたって俺は一人だ。大勢の客を一度に相手することなんてできなくて、あっちからこっちからオーダーが入るもんだから、酒を作ったりジョッキを洗ったりとかいう作業に、ほとんどの時間を取られちまった。

 常連たちの中には、満員の店内を見て、あるいは喋る暇もなく酒や料理を作ってる俺を見て、苦笑いして帰っていく奴もいた。俺は忙しくて、客が引いた後もその片付けやら棚卸しやらでバタバタして、気付いたらもう朝、みたいな感じだ。

 そんなわけで俺はここ数日、よくも悪くも何も考えられなかった。

 連休が終わって客足もいつもの感じに戻っていったが、それに反比例するみてえにたまった疲労が現れてきて、最後の客が帰ってそのまま、カウンターにへたりこんで気絶するみてえに眠ってしまったりした。目が覚めたらもう真っ昼間なんてこともあったりして。

 カズのスーパー銭湯でじっくり湯に入って、苦手なサウナにも我慢して、二階の休憩室で昼寝して、確かに身体のコリはましになったが、それでも頭はどこかボンヤリしたままっていうか、まあ、もういい加減若くねえってことなんだろうな。

 家に戻れば、部屋はひどく散らかってやがる。服やタオルが散乱していて、ゴミの詰まったコンビニ袋が、虫の卵みてえにいくつもくっついて置かれてる。着ようと思ったTシャツが、乾いてないどころかまだ洗ってすらいない状態で落ちていて、溜息をつく。それを拾うのもなんだか億劫で、俺はそのままふらふらとベットに倒れこむ。すぐに訪れる眠気にあらがう気は全く起きなくて、ふと、眠りに入る直前に彼女の顔を思い出した気がするが、それも定かじゃない。

続きを読む
LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?