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おやじパンクス、恋をする。#233

 俺の声が試合開始のホイッスルだったみてえに、直後、全方向からパンチやら蹴りが飛んできて俺は「げひっ」とか言ってもみくちゃにされて、だんだん痛みも感じなくなってどこか他人事にああやっべえなあとか思いながら横でオラオラになっているタカの勇姿にちょっとキュンとなりつつ、そういえば雄大は? ナイフは? 考えてる間にさすがのタカもこれほどの大勢相手じゃどうしようもねえ、ぼこすこにやられ始めてああクソ、こりゃあマジでやべえなあと思った時、「コラああああ!」「なんだてめえら!」みたいな応酬が聞こえて涼介が登場、例のキチガイじみた闘争本能をいかんなく発揮して大暴れだ。

 ただでさえ狭い通路はもう男汁満載、「おい、誰か警察呼べ!」それが梶商事の社員だったのか一般客だったのか分からねえが、殴り合いのさなかそれはやけにハッキリ聞こえて、いや俺ぁ別にいいけど雄大が……下手すりゃあいつ殺人未遂で逮捕ってことにもなりかねえ。

「雄大! 雄大!」

 必死で叫んで探したがあいつの姿はなかった。ゾッとした。あいつ、どこ行ったんだ?

「タカ! 涼介! 雄大が居ねえ!」

 警察がどうのって言葉のせいだろうか、乱闘は少しずつ規模が小さくなり、スーツの男達も波が引くみたいに徐々にいなくなっていった。残されたのはボコボコの俺達、ここが狭い通路で結果的には良かったんだろうな。大勢を相手にするときは路地に逃げ込めって鉄則通りだ。

 「よお、大丈夫か」タカが俺の顔を覗き込み、涼介は蒼天航路の曹操みてえな殺気ムンムンの顔をしている。「そんなことより雄大だ、あいつ、ナイフ持ってるかも知れねえ」俺は言いながら走りだした。

 あいつは混乱の中からいつの間にか消えていた。ビビって逃げ帰ってくれたならそれが一番だ。だが、床のどこかに転がっていたナイフを拾い、再度佐島さんを追っていった可能性もないわけじゃない。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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