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おやじパンクス、恋をする。#035

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

 気がつくと俺はレストランを飛び出して、階段を駆け下りていた。

 ビルを出ると、ガードレールを飛び越えて道路を渡り、忌々しいあのバカの車を横目に再度ガードレールを飛び越えた。

 暗がりの中に、階段が見えていた。今度は躊躇なく飛び込んだ。

 数十秒前の記憶を逆再生するみてえに、階段を一気に登っていく。踊り場に出る度に、落ちかけた陽の光が目を眩ませた。

 ピンク色の光。

 そういえば、三十年前、彼女から学校帰りに突然話しかけられた時も、空はこんな色だったな。

 俺に友達になってと言った彼女。彼女は何でもない事のようにそう言ったけど、あれはもしかしたら、彼女が俺に「助けて」って言ってたのかもしれねえ。

 今みてえに。

 俺の頭には、さっき彼女がカーテンを締める前に見せた目が、こびりついていた。

 その目は「誰か助けて」って言ってた。SOSの視線だった。

 もしかしたら、彼女はそのSOSを俺に気付かれたくなかったのかもしれない。

 三十年前、勇気を振り絞って訴えたSOSに対して、何もしてくれなかったどころか、気付きさえしなかった男だから。

 そして彼女はカーテンを閉めた。どうせ助けてくれないのなら、こんな姿を見せたくないと。

 クソ、クソ、クソ!

 舐めてんじゃねえぞ!

 あのバカが彼女の「男」かもしれねえって考えは、既になかった。なかったっつうか、そんなことはどうでもいいことなんだと思った。

 三階に上がり四階に上がり、同じ間隔で現れる夕日の光を見ながら、だんだん濃くなっていくそのピンク色を見ながら、俺はとにかく彼女を助けよう、今度こそ助けようっていうそのことしか考えてなかった。

 具体的にどういうことをしようなんて考えてねえ。頭にあったのは、彼女を殴ったあのバカを、そして多分、今までだって殴ってきたんだろうあのバカを、二度と立てねえくれえにボッコボコにしてやるってことだけさ。

 五階に上がると俺は一旦立ち止まり、短距離走者みてえにグッと腰を下ろすと、廊下の突き当りに向かって倒れこむみてえに走った。視界の右側にはピンクというよりほとんど黒に近い色に染まった田んぼが広がり、橋の上をライトをつけた電車がこっちに向かって走ってきていた。

 それを認識した時には既に目の前に扉があって、俺は躊躇なくそのノブに手をかけると、回した。

 鍵がかかっていた。なるほど、あのバカがかけたに違いねえ。彼女が逃げられねえように。

 クソ野郎。

 

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

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