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おやじパンクス、恋をする。#181

 そこには十数人の黒い塊。

 俺は涼介の肩を抑えつつ、ボンとタカの脇を抜けて前に出て、先頭に立った。そして、男たちの同じく先頭に立っている、小柄だがゴツイ、ゴリラみたいなおっさんを見つめる。

 俺の後ろには中年パンクス軍団。

 ゴリラのおっさんの後ろには(多分)梶商事の面々十数人。

 まるでヤンキー漫画の決闘場面のごとく、俺らは葬式会場の真ん前で睨み合うようなカタチになった。

「……すんませんが、どちらさんでいらっしゃいますか」

 ゴリラのおっさんは、俺らより一回り上くらいな感じで、昔ながらの不動産屋、こちとら修羅場はどんだけでもくぐってきとんじゃい、そんな粗暴な雰囲気。

 パツパツに張ったワイシャツ、ボタンを一番上まできっちり閉め、首をくくるようにキツく巻かれているネクタイが、実に不気味だ。

 いがぐり頭っていうのか、赤く日焼けした丸刈りの頭の下に、どう見ても柄がいいとは言えない鋭い目が開いている。

 冷静に考えれば、何ら険悪になる必要などない。

 この度はご愁傷様でした、梶さんがお亡くなりになったと聞いたので、せめてご焼香だけでもさせていただこうと……とか何とか頭を下げればいいだけだ(しかもこれに何の嘘もない)。

 そうすればゴリラのおっさんも、ああそうなんですか、それはご苦労さまです、社長も喜ぶと思いますとか言って、そんで仲良く一緒に会場に入り、その後の宴会では梶さんのことなんか話しながらつい飲み過ぎて、肩組み笑ってネクタイ頭に巻き大騒ぎ、なんて展開になるかもしれない。

 だが、ことはそんなに単純じゃない。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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