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おやじパンクス、恋をする。#131

「このあいだ久しぶりに神崎と話したが、和弘がもう四十過ぎだってなあ。そら、歳もくうはずだ。雄大は男兄弟がいねえから、君らみたいな兄貴分がいると、俺も安心だよ」

「いえ、そんな」と俺。

「安心して死ねる」

 梶さんはそう言って笑ったが、すぐに真顔に戻り、少しだけ視線を落とした。陶器製の灰皿を手に取り、トントンと弾く。

「そうだ、倫子のことだったな。あの子のことを、聞きに来たんだろう?」

 不思議なもんで、唐突に核心に触れた梶さんの言葉に、俺は驚いたりビビったりはしなかった。梶さんの小さな目が、皺の間から、真っ直ぐに俺を見ていた。梶さんが自分を見ているということに、何とも言えない喜びがあった。

 俺は梶さんを、好きになっていた。

 人間、目を見りゃ分かるって言うが、確かにそうだと思える瞬間がある。

 俺は、俺自身も気付かないくらいのスピードで、何かを――そう、何かを決意した。

「はい」

 俺は言った。

「そうか」

 梶さんは言って、若いやつにはとうていできそうもない、笑い顔にも泣き顔にも怒り顔にも見える複雑な表情をして、タバコをもみ消した。

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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