おやじパンクス、恋をする。#173
「傍から見てると早かったって感じだけど、梶さん、死ぬ気で頑張ったんだろうなあ」
カズがそう言って、死ぬ気で頑張って死ぬだなんて変な表現だが、なぜか泣きそうになった。
「バカ、嘘だろ、お前、バカ」なぜかひどく取り乱す涼介。誰よりもぶっきらぼうで、誰よりも仲間想いの男。
「彼女、ご苦労様だな。梶さんもきっと、満足して逝ったんじゃねえの」
達観した雰囲気のボン。
「梶さんが亡くなったって? なあ、葬式は……」
タカはメールに対しても安定のオウム返しだ。
反応は様々だったが、そういうやりとりを終えて、部屋で何となくタバコを吸っていると、心の中に妙な空洞ができちまったように感じた。
空洞はそこまで大きくなく、だけど確かに空洞で、そこにどんな感情を流しこむかを俺自身が迫られている感じ。
ガキの頃、ほとんど面識のなかったひい婆ちゃんの葬式に出た時も、棺桶の中の青白い顔を見ながら今自分はどういうことを思えばいいのか分からなかった。それと似てるといえば似てる。
違うのは、今の俺なら、四十三の俺なら、悲しむことも、無関心でいることも、あるいは喜ぶことだってできそうな気がしたってことだ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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