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おやじパンクス、恋をする。#199

「私らは、会社を維持して、食べていくことで精一杯ですわ。突っ張って生きる元気も、なくしちゃってね」

 佐島さんの言葉にどう反応していいのか分からず、俺は黙った。

「時代は変わりましたなあ。私には分からんことばかりですが、社員たちの生活がありますからな、好き嫌いは言ってられやしない」

 よくわからないが、なんとなくそれは、以前彼女から聞いた例のビジネス、嵯峨野っつう出目金野郎が始めたっていう、ネットワークビジネスとかいうやつのことを言ってんのかな、とふと思う。

 そして佐島さんは、ゆっくりと空に視線を投げると、言った。

「社長も生前よく言ってました。誰を戴くにせよ、主君のために尽くせと。尽くせない主君ならば自ら去れと」

 ……俺はこのいかつい小柄なおっさんを、嫌いになれなかった。

 詳しいことは分からないが、このオッサンも彼女同様、嵯峨野や嵯峨野のビジネスにシックリ来てなくて、だけど会社や社員のことを思えばそれに従うしかねえっていう、複雑な状況にあるのかもしれない。

 多分この人は、涼介みたいにどこにでも噛み付く血気盛んな社員たちを、なんとか一生懸命まとめてきたんだと思う。

 そして、その苦労はこれからも続く。

「じゃあ、失礼します。またいつか機会があったら、ご一緒しましょう」

 そう言って軽い会釈をした佐島さんは、「あ、そうだ」と言って、手に持っていたビニール袋から数枚の紙を取り出した。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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