見出し画像

おやじパンクス、恋をする。#230

「いいから、とにかく、やめろ。な?」

 俺は言ったが、若いボディーガードは肩をすくめ、後ろを振り返った。その視線を俺も追うと、そこにはふてぶてしい顔でタバコをふかす佐島さんがいた。

「って言ってますけど、どうします?」ボディーガードが言って、佐島さんはへっと笑うと、「続けろ」と言い放った。

 すぐに拳が飛んできて、俺の鼻の脇にめり込んだ。その躊躇のなさに、俺はボディガードという職業の恐ろしさを知った気がした。こいつらはご主人様に命令されれば、さっきまで仲良く話してた相手にだって何の躊躇もなく拳を放つんだろう。

 痛みよりも衝撃によって視界がチカチカし、膝が落ちる。瞬間的な記憶喪失になったような感覚。息つく暇なく今度は膝蹴り、咄嗟に腕をクロスさせてガードするも、重さと鋭さが同時にぶつかってきて、俺の身体はぶっ飛んで、後ろの雄大に思いっきりぶち当たる。

「マ、マサさん?」

 背後から虫みてえなか細い声、雄大のバカ、やっと気付いたらしい。正義の味方なんて気はさらさらねえが、俺はいつの間にか両手を広げて雄大を守るような体勢をとっていた。

「おいこらバカ雄大、てめえなにやってんだよ」

「マサさん、俺……俺……」

 ボディガードの繰り出すパンチは、素人みたいに腕を振り上げておらああなんて感じのやつじゃねえ、顎の下に構えた拳が、一瞬で巨大化する感じ、気がついたらぶん殴られてるんだ。

 俺はさっきの雄大みたいに、面白いようにボコボコにされた。

 真剣に反撃しても、それは太い腕でパシっと簡単にガードされ、反対に顔、腹、肩、胸、そして太ももから脛への蹴りへのコンビネーション、一発一発が重くて激しい。今まで喧嘩してきた中でも、トップクラスに強え相手だった。

続きを読む
LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?