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おやじパンクス、恋をする。#110

「でも、嵯峨野の側についた社員もいて、だからしばらく梶商事は、ある種の内戦状態にあったわけ。嵯峨野派と反嵯峨野派で、睨み合っていたのよ」

「涼介に言ってたあれやこれやも、そのへんの話?」

 のんびりした声が聞こえて、皆がボンの方を向く。

「ボン、どういうことだよ」

「だから、涼介が彼女の家にぶっこんだ時さ、言われたんだろ? 本人に来させろとか、判断は社長がする、とか。あれは彼女が涼介のこと、嵯峨野派が送り込んだヤクザだとでも思ったんじゃねえかってこと。違うの?」

 それから俺らはまた一斉に彼女の方を向く。

「ああ、あの時ね。そう、その通り。あれは社内の雰囲気が一番悪い時期だったからね。まあ、咄嗟にそう思ってしまったのも、涼介の風貌のせいなんだけど」

「ああ? このアマ」

 吠える涼介を俺らは無視して深く納得する。なるほど、そういうことだったんだな。

「でも、じゃあなんだってキミは嵯峨野と一緒にパーティに参加したんだ」

 俺は聞いた。だっておかしいじゃねえか。もともとは嵯峨野と敵対していたはずの彼女が、なんで嵯峨野と仲良くなってんだ?

 彼女はふう、と溜息をつくと、ビールをぐいっと飲んで、苦笑いした。そして、どこか投げやりな感じで言った。

「だって、いがみ合いを続けてたって、未来はないじゃない。仮に、私たちが嵯峨野のやり方が気に入らないって彼を追い出したとして、どうなるの? 会社はまた傾いて、泥沼に沈んでいくだけじゃない。だから私は、彼や、彼を支持する社員たちに向かって、白旗を上げた。あのパーティーの場で、私はそれを皆の前で公式に認めたってわけよ」

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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