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おやじパンクス、恋をする。#106

 一時間と待たずに全員が集まった。

 中でも早かったのはタカで、俺の集合メールを受け取ったのは、69の扉まであと十歩くらいの場所だったてんだから、笑える。

 送信ボタンを押した直後にタカが店に現れて驚いたが、実際にはタカの方が驚いていた。何しろ、そこで彼女が飲んでんだから。

「いやまあ、そういうもんだよな」

 タカに遅れること三十分で登場したカズが、感心したように言う。

「なんだよ、そういうもんって」と俺。

 カズは大切な革ジャンが濡れるのが嫌だと、上にスーパー銭湯のロゴ入りジャンパーを羽織っていた。マジかよこいつ。

 俺の質問には答えず、カズは「倫ちゃん」との久々の再会を楽しんでいるようだった。

「まさかカズくんまでこんなんになってるとはね」彼女は目を丸くして笑っていた。

「親父同士が仲良かったんだよ」彼女との繋がりを説明するカズに、タカはでけえ身体に似合わねえ「へえ、そうなのか」なんてかわいい声を出して、俺はまた白いコピー用紙に「本日貸し切り」と書いて、それを張るために一度店の外に出た。

 ちょうどその時、顔を腫らした涼介が登場した。頬と額、顎に絆創膏貼って。

 涼介を呼ぶことに躊躇はなかった。怪我の状態も見た目ほどじゃねえと医者が言ってたし、彼女の方も、話すと決めたからには涼介に変な遠慮をするはずもねえと思ったからだ。

 詫びの意味も込めて(というより、俺としては感謝の意味の方が強かったんだが)、今夜は奢りだとメールしてあった。 

 張り紙見て、なぜか面倒くさそうにピンクのペンを取り出すと、おめこマークを書き入れた。

「よお、ご苦労さん」

「るせえバカ、いたわれ」

 店に現れた涼介の絆創膏だらけの顔を見た途端、そこにいる全員が爆笑した。

 まあ無理もねえ。見れば、彼女まで笑ってやがる。

「てめえら、何笑ってやがんだ」

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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