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おやじパンクス、恋をする。#141

 だけど、梶さんに会い、雄大に会い、そして彼女に気持ちを伝えた今、長らく続いた俺のバカな現実に、少しだけまともな部分ができ始めた感じがする。

 考えてみれば、あっという間だった。あっという間に状況は変化し、そしてたぶん、俺自身もいつの間にか変化した。その変化は必ずしも、俺が望んだ通りの変化ではなかっただろう。

 だが、そんなことを考えても何の意味もねえ。どんな変化が訪れようが、あるいは訪れなかろうが、この人生の主演は最後まで俺。途中で「降板」なんてできねえ仕組みになってやがる。

 いつだって、自分の立っているこの場所が、現実なんだ。

 やがてぽろぽろと客が来始めて、俺はいつもと同じように、この愛すべき店で仕事をこなした。客と笑い、語り合い、ときには言い合いになりながら、この狭い空間でガブガブとアルコールを消費する。

 珍しく長居する客がいなくて、四時前には閉店作業も終わり、まっすぐに家に帰った。

 熱いシャワーを浴びて、帰りにコンビニで買ってきたサンドイッチを食って、それでも外はまだ暗くて、俺は久しぶりに、夜のうちにベッドに入ることができた。

 眠気はすぐに俺を襲ってきたが、寝る前に彼女の写真を見ようとiPhoneに手を伸ばしかけて、なんでか、もう見なくてもいいのだと思った。

 写真じゃなくて、これからは、現実の彼女だ。

 俺の人生に、ついに彼女という現実があらわれた。

 明日また電話しよう、そう思いながら俺は意識を失った。

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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