おやじパンクス、恋をする。#117
「はあ?」
これには俺だけじゃなく皆が驚きを隠せなかった。
「ちょっと待てよ。意味がわからねえ」
カズが言い、彼女の方に身体を向ける。
「会社のゴタゴタがあるから、嵯峨野のことも拒めねえ。そういう話じゃねえの?」
なんて言えばいいのかな、と彼女は少し考え、答える。
「嵯峨野のやり方に思うところがあるのはホント。昔から知ってる梶商事が変わっていってしまうことが寂しくて、それをあんたたちに吐き出したかったのも認める。でも、別に嵯峨野との個人的な関係で悩んだりはしてない」
言葉を選びながらも、曖昧な表現はしない。彼女らしい断定的な言い方。
「けど、パーティでイチャこいてたじゃねえか。俺は嵯峨野がてめえの肩抱いてんのを見たぜ」
涼介が言って、ああそうだ、と思い出す。実際にあの場にいた涼介からそう聞いていた。それ見て涼介はブチ切れちまったわけでさ。
「別にイチャこいてなんてないわよ。それはあんたの先入観がそう見せただけよ」
「んなことあるかよ。隣の席に座って、顔近づけ合って笑ってたじゃねえか」
「だから……あの場ではそう見せることが大切だった。嵯峨野と私がいがみ合ってなんていないってことをね」
「ああ、そうか」とボンが楽しそうに言う。「社員さんもごっそり来てたって言ってたもんな」
「どういうことだよ」と俺。
「要するに彼女は梶さんなんだよ。梶パパさんの代理人として、社員たちの前で、嵯峨野を受け入れた。彼女もさっき言ってたじゃねえか、会社が内戦状態だったって。彼女と嵯峨野の行動はつまり、休戦協定の公開調停式みてえなもんだったわけだ」
ボンの言葉に彼女が指をパチンと鳴らして、指をさす。
「そう! そういうこと! 皆を安心させるために、私はそういう役を演じなきゃいけなかった。ううん、別に演じてたわけじゃない。私は、私たちは事実、嵯峨野のやり方を受け入れたんだから」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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