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おやじパンクス、恋をする。#197

 梶さんの葬式は、別段変わったところのない、普通の葬式だった。

 いやまあ、普通の葬式ってのがどういうもんかよく知らねえけどさ。

 梶さんとゆかりの深そうな人が挨拶したり、順番に焼香したりしながら、まあそれなりにすすり泣きの声やら、逆に「あの世でも好き勝手に生きろよ」なんて熱い野次が飛んだり、ほとんどの人はただ黙って俯いて、時間が過ぎるのを待っているみたいだった。

 やっぱり、葬式なんて楽しいもんじゃねえよ。

 大昔、俺のひいばあさんの葬式に出たことがあって、俺は高校生になったばかりだっただろうか、人間の死体ってのを初めて見た。

 ひいばあさんはいつもとあんまり変わらねえ姿で棺桶の中に入ってた。

 でも、「触ってあげな」なぜか母親にそう言われて頬を触ってみると、明らかにおかしなその肌の感触に驚いて、俺は思わず「うわっ」と声を上げてしまった。

 なんつうか、力を込めたら骨から皮がずりゅって剥がれ落ちてしまいそうな、そういう嫌な感触さ。

 そん時に俺はたぶん悟ったんだな。

 ああ、これはもう人間じゃない。

 単なる「容れ物」なんだってさ。

 科学的にどう考えられてんのかなんて知らねえけど、俺は体験的に、人間は死んだら肉体っていう「容れ物」を残してどっかにいっちまう、つまり魂ってもんはどっか遠くにいっちまうもんなんだという風に理解した。

 そう、だからもう、ここに梶さんはいねえんだ。

 ……まあ、んなことうだうだ言っても仕方ねえ。

 心持ちは別として、やっぱり俺は梶さんの葬式に出るのが「礼儀」だと思うし、それはあいつらもそうなんだろう、結局梶さんには会うことのなかった涼介やタカボンも、真面目に焼香してたよ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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