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おやじパンクス、恋をする。#027

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

 それを見て俺は、嫌な予感がした。

 俺を追い出しながら彼女が見せたあの苦しげな、辛そうな、何とも言えねえ顔がパッと頭に蘇って、根拠はねえけど、それはいま階段登ってったあいつのせいなんだというような気がしたんだよ。

「おい、あいつ、何なんだよ」俺は思わず呟いた。

「まあ、羽毛布団のセールスマンじゃねえことは確かだな」とボン。

「ムカつく野郎だったな」涼介が頬をひくつかせる。

「いいじゃねえかよ、もう帰ろうぜ」と、タカ。

「俺、何か嫌な予感すんだよ」俺が言うとボンも涼介も同意した。

「ああ、するな」

「タイミングがタイミングだしな」

「なんだよ、どういうことだよ」とタカが聞く。

「いや、だからさ、あのバカ、彼女のとこに行ったんじゃねえのかっていうことだよ」とボンが答える。

「なんでだよ、ここに住んでるだけかもしれねえし、こんだけ部屋があるんだ、あの部屋に行ったとは限らねえだろ?」とタカ。

「まあ、そうなんだけどな」とボン。「なんとなーく、嫌な感じがするっていうだけだよ」

 そしたら涼介が「ああ、そういうことか」と一人納得した感じで言って、意味深な表情で俺らの顔を見回した。

「なんだよ、何がそういうことなんだよ」俺が聞くと涼介は、「お前らは見てなかったと思うけど」と言った。

「扉がノックされたら、普通さ、とりあえず誰が来たかってあの穴から外覗くだろ、扉についてる穴」

「何の話だよ」と俺。

「いやだから、俺が彼女の部屋まで行ってノックしたとき、パッて扉が開いたんだよ。なんつうか、こっちがビビるくらいにあっさりと。それなのに彼女、俺を見てすげえビックリしてた。それって、何か変だろ」

 なるほどな、とボンがカバンの中から携帯灰皿を取り出して言う。自分でペイントした、サイケデリックな柄。

「彼女は誰が来たかを確認しねえで扉を開けたってことだな。つまり、誰かが訪ねてくることを知ってたんだ」

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