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おやじパンクス、恋をする。#060

「まあ、そうなんだけどな。でも、久々に再会して盛り上がっただけっつうかさ」

「いやそうじゃなくてよ、普通に結婚してたりとか、子どもがいたりしたら、さすがに朝まで飲んだりはしねえだろってことだよ」

 そう言われると……まあ、そうだな。実際彼女、一人暮らしだしな。

「男はいるのかもしれねえけど、それだって、知らねえ男と自由に飲みに行かせるか? まあ、彼女が秘密にしてるって可能性はあるけどさ」

 うーん。確かに。

 それに、彼女にコソコソした様子は全くなかった。彼女の家から店までも、嫌でも目立つ俺らと一緒に移動してたわけだし。

 何となく俺はカズに対してガチの相談をしたくなってきた。さすが社会に揉まれてるだけあって、まあ普段は折り紙つきのバカだが、今日のカズは何だか頼りになる。

 俺はそして、彼女との出会いから昨日の感じまで、順を追って説明していった。案の定、カズがボンから聞いていたのはその概要だけで(あるいは彼女の容貌だけで)、あのバカとのやりとり、そしてその「父親らしい存在」などについては知らなかった。

 カズはさっきもやってた探偵じみた仕草、上目遣いで顎に手を置くっていうスタイルで、俺の話をうんうんと聞いていた。時々「なるほど」とか重々しく相槌を打つ。いや、誰なんだお前は。

「つうことはさ、いや、話聞いてりゃお前が彼女にぞっこんだってのは分かるんだけどさ、要するにその黒幕と彼女との関係が明らかになればいいんじゃねえの? 俺的にはそんなこと気にしねえで当たって砕けろって思うけど、お前的にはまずそこを知りてえと、こう思ってるってわけだ」

 聞き終えたカズはそう言うと、「ちょっと待ってろ、ビール持ってくるから」と言って席を立った。思えばだいぶ前にビールは空になっていた。そんなの俺の話を遮って取りに行きゃいいのに、こういうとこ変に律儀なんだよなあ。

 それにしても、今日のカズは冴えてる。冴えてるっていうか、本質的なことをズバズバと言ってきやがる。

 確かに俺は「そこ」を明らかにしてえと思ってる。

 黒幕と、彼女との、関係。

 変に気を遣って俺が切り込めなかった部分。結局は俺のその勇気のなさが、問題を曖昧に、不透明なものにしているってことだ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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