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おやじパンクス、恋をする。#107

 涼介は犬みてえに八重歯を露わに言ったが、「よかった、ピンピンしてんじゃないの」と彼女に言われると、「るせえこのアマ、敵陣が何でここにいやがるんだ」と吠えながら席についた。

 分かってはいたが、場はすぐに宴会じみた雰囲気になった。

 いつもはすぐにギターを手に取るカズも、彼女との思い出話にしゃべりっぱなしだし、タカやボンは涼介の傷をつっついたり、一日でスーツをオシャカにした話に爆笑していたりする。

 カズ、彼女、タカ、ボン、涼介っていう五人の客で、店はほとんど満席だ。まあ、話は後々、じっくり聞きゃいいかつって、俺はビールだウイスキーだ焼酎だを作って、奴らに出した。俺も飲んだ。

 楽しい夜だった。

 もともと楽しい仲間内だが、そこに彼女が加わると、なんだか言いようのない充実感がある。何ていうか、俺らにずっと欠けていたパズルのピースがカチッとはまったみてえな、この空間に全てのものが揃っているような、満たされた気分になるんだよ。

 それは彼女に惚れちまってる俺だけの話じゃないようで、タカもカズも涼介もボンも、みんながみんな、彼女を昔からのダチみたいに扱っていたし、彼女の方も、そういう奴らにすっかり馴染んでいるようだった。

 それぞれが二三杯飲んで、だんだん気持ちよくなり始めた頃、「で、肝心の話はよ」と、他でもねえ涼介が口にした。

 怪我してんのに酒をセーブするつもりは全然ないらしい。ビールをがぶがぶ飲んで、無言でジョッキを差し出してくる。こいつ、奢りだと思って調子乗ってやがんな。

「なんだよ、肝心の話ってよ」とタカ。

「作戦会議だよ」とボン。

「おっさんパンクスの七日間戦争、ってか」カズが言って、笑う。

「なんだよ、おっさんパンクスの七日間戦争ってなんだよ」オウム返しはもちろんタカ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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