おやじパンクス、恋をする。#082
「やっぱダメか」
「応急処置もできねえよ。しばらく預けろ」
態度は悪いが、腕は確かだ。おやっさんでダメなら、ダメなんだろう。だから俺も素直に頷いた。
「ああ、頼むわ」
だが、そうなると困るのは、どうやって問屋町に行くかだ。この際原付きでもなんでもいいから借りてこうと狭い店を見回すが、そこにあるのは涼介の愛車――天羽時貞に憧れて買ったSR――だけだ。
一応おやっさんにも確認してみたが、代車として使えるようなバイクはちょうど置いてないらしい。自分の愛車が直んなくても、まあ一台二台は使えるバイクがあるだろうと勝手に思ってたんだが、うーん、困ったな。
見ればおやっさんは早々にバイクから離れ、例の「テラス席」に戻って新聞読み始めてやがる。まあ、気が向いた時にじっくり直してくれはするんだろうが、客を前にした態度とは思えねえ。
でもまあ、格安で修理してもらう以上文句は言えねえし、だいたい、ガタガタ言って機嫌損ねられたら、正直言って涼介よりやっかいだ。
じじいのくせに腕っ節が強えし、若い頃はヤクザもんとも余裕で殴り合ってたって話もある。
ちなみに言うと、スーパー銭湯を経営するカズの親父さんとは幼馴染らしい。まあ、カズの親父とそういう関係な時点で、推して知るべしって話なんだけど。
仕方ねえ。寝起きのあいつと絡むのは気が進まねえが、他に方法もねえし、例のスーツの件もあるし、俺は勝手に階段を登っていった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?