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おやじパンクス、恋をする。#017

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

「こん中?」タカが聞く。

 俺は苛立ちながら答える。

「だから、このマンションの中だよ。あいつ、五階に行ったんだ」

「五階?」タカ必殺のオウム返し。ああもうこのバカ、いい加減にしやがれ。

「ああ、分譲かどうかって、そういうことか」ボンがタバコに火をつけながら独りごちる。

「なんだよ、どういうことだよ」一人事情の分かっていないタカが、駄々をこねるガキのように言う。

「だから」

 俺は説明した。

 要するに涼介は、俺の話の中に出てきた「彼女」がまだあの部屋に住んでいるかもしれないと考えたわけだ。三十年も経っているから普通は引っ越したと考えるもんだが、分譲マンションだったら移動していない可能性はあると踏んだ。で、おばちゃんに聞いたらやっぱり分譲だと言う。

「カーテン赤かったしなあ」ボンが何気なく言う。

「どういうこと?」とタカ。

「こいつの話の中でも、あの部屋のカーテンは赤かっただろ。同じ部屋で同じ色のカーテンとくりゃ、同じ人間が住んでるような気がしないでもない」

 そうだ、全くその通りだ。涼介はそこまで分かってたんだろうか。そして、カーテンが開けられたことで、まさに今、あの中に「彼女」がいると考えたんだろう。

 それにしてもボンっつうのはよく分かんねえやつだ。頭の回転が早いっつうか、高校まで超頭良かったって話もあながち嘘じゃねえのかもな。

「で、涼介は一体何をしようとしてんだよ」そのボンがのんびりと聞く。

「そんなのわかんねえよ。でも、何にしたって行き先はあの部屋だ。そうだろ?」

「あの部屋に行ってどうするんだよ」なぜか俺以上に焦った様子のタカが言う。

「だからわかんねえつってんだろこのバカ」思わず俺は声を荒げる。タカはしゅんとする。全身刺青だらけのくせに。

「どうでもいいけど、涼介を一人にしねえ方がいいんじゃねえの。何しでかすか分かったもんじゃねえ」とボン。

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