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おやじパンクス、恋をする。#169

 微かに開いたレースカーテンの向こうに、既に懐かしく感じるあのレストランがある。

 俺と彼女は、乱れた服装をなおそうともせず、ただぼんやりその景色を眺めてた。

「あ、おばちゃん」

 こないだのおばちゃん店員が、シェフだろうか、太った男とつまらなそうに話しているのが見えた。そろそろ夕飯時、客が来始める時間だ。

「マカロニグラタン、あったと思ったけどな」

 俺の独り事を、彼女は心地よく流して、その柔らかくていい匂いのする身体を寄せてくる。

 できればこのまま、何時間でもこの部屋で、こうして彼女と過ごしていたかった。

 何をするでもなく、何を話すでもなく、ただぼんやりと、俺達の知りあうきっかけになったキッチンクリハラを覗き見しながら、この満たされた気持ちを味わっていたかった。

 でも、彼女は梶さんのところに行かなければならないし、俺にだって仕事がある。

「じゃあ、そろそろ、行くわ」

 俺は立ち上がり、投げ捨ててあったズボンを拾って履いた。彼女もゆっくり立ち上がると、俺の脇を通りぬけ、そして冷蔵庫からレッドブルを取り出した。

 「飲む?」と差し出すので、サンキューと言ってそれをごくごく飲み干した。飲み干してから、あ、これもしかして彼女が自分が飲もうと買ってあったやつなのかな、レッドブル買うなんてやっぱ疲れてんのかな、つうか俺飲んじゃってよかったのかな、とか考えたんだけど、彼女は「買っといたんだ。マサに」俺の心を読んだみてえに(いや、やっぱ俺、いろいろ顔に出ちまうんだろうな)言って、「ソルマックとかも、ほら」と冷蔵庫を開けてその充実のラインナップを見せてくれた。

 すげえな、俺が笑うと、いつもよりも薄いメイクの彼女も笑った。

 それで俺、やっと言えた。

「ごめんな、急に押しかけて」

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ


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