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おやじパンクス、恋をする。#084

「よお、てめえよ、何があったんだよ」

 いい加減ふざけて「貞子ごっこ」なんてしてる場合じゃなさそうだ。俺はスタスタ近づいていって、涼介の頭に空手チョップをお見舞いした。

「なっ、コラ、てめえ痛えだろ。死なすぞ」

 のけぞって痛がる涼介。俺はため息をつく。

「死にそうになってんのはてめえじゃねえか。なんだよそのザマ」

 涼介はチッと舌打ちすると(舌打ちの癖も遺伝するんだな)、ボリボリと頭をかき、冷蔵庫から瓶入りのフルーツ牛乳を取り出した。「ほれ」と俺にも一本差し出すので、ありがたくいただいた。

 牛乳を無言で飲み干した俺たちは涼介の部屋に移動して、ゆっくりとタバコを吸った。

 六畳一間の狭え部屋だ。この二十年何にも変わらねえボロくてゴチャゴチャした部屋の中、デスクの上のでけえMacだけが浮いている。――いや、壁にかけられたスーツもだ。

「で? いったい何があったんだよ」俺は空中に煙を吐き出しながら聞いた。

「何って、何が」意味のないしらばっくれをする涼介。

「ボコボコじゃねえか。それに、何だよこのスーツはよ」

 俺が指差すと、涼介もスーツに視線をやった。ボロボロに汚れて、ところどころ生地が裂けたスーツ。

 そして、何が楽しいのかクックックと笑った。

「何だよ、何笑ってんだよ」

「いやよ、もったいねえなあと思ってよ。一万円もしたんだぜこれ」

「はあ? つうかスーツって一万で買えんのかよ」

「買ったその日にオシャカになるとはなあ。まあ二度と着ねえからいいんだけど」

「何言ってんだ、説明しろよ」

 俺が真剣な口調で言うと、涼介は少し不貞腐れたようになりながら、手首につけてた黒いゴムを使って長い髪を一つにまとめた。腫れた頬がいよいよ顕になって、よく見れば目元には二センチくらいの切り傷もできている。

 俺は嫌な気分になった。

 人の拳でだってああいう鋭い傷はできないこともねえが、何か尖ったもんでつけられたんじゃねえのか? 角材とか、場合によっては――ナイフとか。

「誰だよ相手」俺は言った。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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