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おやじパンクス、恋をする。#083

 二階にはまず薄暗い台所があって、その奥に涼介の部屋がある。

 どうでもいいけど、人の家の台所ってなんか独特だよな。変にリアルっていうか、住人の秘部を見ちまったような気まずい感じがする。

 ショールームにあるシステムキッチンみてえな、ぴっかぴかな台所なら話は違うのかもしれねえが、こういう薄暗くて、朝飯だろうか、なんとなく魚の生臭さが残ってるような生活感満載な感じに、独特の不気味さを感じちまう。

 だから俺、その向こうにある部屋から、溺死体みてえに顔が膨張した涼介が突然出てきた時、思わず悲鳴をあげちまった。

「な、なんだその顔」

 俺の言葉に、そのボコボコの涼介が目を上げた。

 長くウェーブした黒髪の間から、赤く血走った目がこちらを睨んでいる。

「お、おい。なんだよ、どうなってんだ」

 言いながら思わず後ずさる俺。それに合わせて、ゾンビみてえに、ゆらゆらしながら無言で近づいてくる涼介。

 なんだこいつ、イカれちまったのか? 

 いや、なんてこった。こいつは最初からイカれてるじゃねえか!

 そんな意味のねえ自問自答をしながら、俺はとうとう壁際まで追い詰められた。

 柔らかくたわむベニヤに背中を押し付け、貞子ばりの不気味さで近づいてくるスウェット姿の涼介を凝視する。

 その細長え体の向こう側、開け放たれた扉の向こうに、きちんとハンガーにかけられたブラックスーツがかけてあるのが見えた。さっきおやっさんが言ってたスーツだろう。

 だが、なんだあれ? 俺はすぐに違和感を覚えた。なぜなら、そのスーツが尋常じゃないくらいボロボロだったからだ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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