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ビジネスが開いた量子論の扉

前回、「相対性理論のおもしろさ」と題して色々と書きました。

実はまだまだ書きたいことがあって、どこかでまとめたいのですが、その前に今回は「量子論」について書いてみようと思います。しかしこれまた書きたいことがたくさんあるので、以下の5つのテーマに分けて書いていこうと思います。

①ビジネスが開いた量子論の扉:<プランク定数>の発見
②仮説思考と量子論①:<アインシュタインの光量子仮説>
③仮説思考と量子論②:<ボーアの原子模型>
パラダイムシフトと量子論:量子論黎明期のまとめ
⑤摩訶不思議な量子論の世界:<物質波>と<シュレーディンガー方程式>

ということで、今回は①です。

さて、量子論は言うまでもなく相対性理論と並んで20世紀に生まれた最も重要な理論の一つで、この量子論の創設にもアインシュタインが関わっているのは有名です。量子論が主張する内容を端的にまとめると、

「ミクロの物質は、粒と波の性質をあわせ持つ」

ということに尽きると思われます。
ただ、アインシュタイン自身はこの理論に対して否定的な立場だったことも、これまた有名な話です。

その魅力的な内容からか、相対性理論と同様、量子論は多くの書籍で取り上げられています。その中でも「数式を極力使わず」をモットーにした書籍が人気を博していると思われますが、それもそのはずで、数学的・物理的な解釈に踏み込むと量子論は非常に高難度の理論であり、しかもそこまで突っ込んで理解しなくても十分にその面白さを学べる書籍がたくさん出ているので、ざっと理解するにはそういった書籍で十分だから、だと思われます。この点は<相対性理論>に似ているかと思います。どちらも非常に面白いのですが、数学的・物理的記述に踏み込んでの本質的な理解のハードルはベラボーに高いです。

ただ、個人的には、量子論の理論展開の中で見える当時の時代背景や、天才的ともいえる数学的・物理的閃きの数々に、ロマンを感じるなーと思うのです。なので今回もその点を書きたくなった次第です。

・・・と、話がいきなり込み入ってきたので、ここではまず、量子論誕生の背景を探っていこうとおもいます。

さて、背景と言っておきながらつい最近の出来事に触れますが、今年の5月に質量(重さ)の単位「kg」の定義が130年ぶりに変更されました。これまでは「国際キログラム原器」と呼ばれる分銅の質量が定義でしたが、それが普遍的な定数である<プランク定数>をもとに定義される、ということに変更されたのです。つまり、「不確かさのない物理定数となった」ということです。

<プランク定数>は、量子論で中心的な役割を担う定数です。この定数の発見から、量子論の幕が上がります。

・・・長い前フリになりましたが、ここから、このnoteの目的である<プランク定数>について、歴史的背景を交えながら書いてみます。

量子論誕生の背景には、「ビジネス的なニーズから偶然にも発見された」という史実があります。<プランク定数>の発見者プランクは、ドイツ出身の物理学者でした。ドイツは19世紀に普仏戦争で勝利すると、莫大な土地(アルザス・ロレーヌ地域)を獲得したことで製鉄業が飛躍的に成長したそうです。すると良質な鉄を作り出すニーズが高まり、溶鉱炉内での温度を正確に把握・制御する必要が出てきました。

当然、当時は電子機器などで精緻な温度を測定する技術はなかったので、「色」を見て温度を把握する必要があり、この「熱した物質の温度と光の色の関係を解明すること」に、多くの物理学者が取り組んだそうです。
その際、色のついた物体だとその物体自身の色に応じた波長が生まれたりして正確な検証ができないため、温度の高低だけに左右された光を放出する「黒い物体」で検証することが良いと分かりました。この研究を<黒体放射の研究>と呼びます。

この研究が、まさか量子論の扉を開くなどとは誰も想像していなかったでしょう。いやー、おもしろいですねー。

(以下、グラフや数式を色々示していきますが、出典はすべてWikiです)

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この<黒体放射の研究>では、上のグラフのように
・物体の温度(曲線)
・光の明るさ(縦軸)
・光の振動数(横軸)

の3軸で考察が進み、これらの関係性を数式で導出することに多くの物理学者が挑みました。

しかし、それがうまくいかなかった。

というのも、そもそも<古典統計力学>では<エネルギー等配分の法則>というものがありまして、

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で与えられる等式において、このエネルギー εj の統計的平均は、

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で与えられるという法則があります。
(k:ボルツマン定数、T:絶対温度。詳細は割愛します。雰囲気を感じてもらいたいので数式を示しました。詳しくは参考書籍③を参照)

これが何を言っているのかをこの文脈でざっくり説明すると、

温度が安定している溶鉱炉の中では、どの光の振動にも同じ量のエネルギーが分配される(と考えられていた)

ということです。二つ目の数式の右辺が示すエネルギー量が、全ての振動に対して割り振られるはずなのです。

当時、光は「波」と捉えられていました。波の性質として、「振幅が大きいほど大きなエネルギーを持つ」というのが当たり前で、当然これが光にもあてはまると考えられていました。つまり、振動数が大きな光ほど、大きなエネルギーを持つはずなのです。しかし、一定の振動数を超える(グラフ右側)と急激に光の明るさが弱まっています。これは当時の物理学(熱力学や古典統計力学)では説明できない現象です。

数学や物理に触れていると、こういった

これまでの常識では説明できない現象や矛盾を、当時の数学者や物理学者がどう乗り越えてきたか

という史実に出くわします。<相対性理論>のnoteでも書きましたが、ここでの知的格闘や天才的閃きの数々は本当に面白くて、ロマンを感じずにはいられないところだと思います。物理学者ってかっけぇなー。

さて、この矛盾を克服するためにプランクが生んだ新しい考え方が、<エネルギー量子仮説>と呼ばれるもので、これこそまさに量子論の誕生のきっかけとなったものです。それは

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という数式で表されます。Eはエネルギー、νは振動数を表します。この仮説の主張は、簡単に言うと、「振動数νの光はhνという大きさの単位でしかエネルギーを受け取れない」ということです。そしてこのhこそが、このnoteの主役である<プランク定数>です。

どういうことかというと、この数式が仮説として主張しているポイントは、

高い振動数の光は、「おおきな塊(hν)のエネルギーをちょうだい」と要求するが、そもそものエネルギーを「等分配」したいのに、その等分配された1個あたりのエネルギーの大きさが「ちょうだい」と要求されているものに満たなければ、そもそもあげられないということ。だから、ある一定のラインを超えると、光の明るさが急落するのだ。

ということです。これは、光のエネルギーを「hνを単位とする」ということであり、これより小さい単位(例えば0.5hν、0.03hνのような量)にはならないということです。つまり、1hν、3hν、12hνのような整数倍の値(不連続な値)にしかならないということです。

これは、物理量は「連続的に変化する」ことが当たり前だと考えられていた当時では革命的な発想でした。そもそも光は当時「波」だと捉えられていたので、物理量は当然「連続的」だと捉えられていたからです。

(ちなみに、初見の方には何のことやらの説明ですが、1900年時点のプランクは「光のエネルギーがhνの整数倍」とは考えておらず、「光が他の物体とエネルギーをやり取りするとき、hνを単位として行う」とだけ考えていたそうです。整数倍と考えられるようになるのは1905年の<アインシュタインの光量子仮説>以後だそうです。)

この考えを推し進めることで、黒体放射の曲線を正確に表現する方程式を導出することにプランクは成功しました。この方程式は<プランクの公式>と呼ばれ、

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と表現されます(各定数の説明は割愛。詳細は紹介書籍に譲ります)。これは、先に述べた「光のエネルギーをhνを単位とする」という仮定のもと、古典統計力学で有名な<カノニカル アンサンブル理論>での平均値算出法を適用して導出したものです。あとは、<アインシュタインの比熱式>を理論的に緻密化した<デバイの比熱式>も関わってくるのですが、ちょっと専門性が高くなりすぎてキリがないのでこの辺で。(詳細は参考書籍③)

当然、これは当時の物理学の前提では説明できない現象を表現した数式であるため、「これまでの常識を覆す新たな理論」であり、「光は波だ」という常識が支配していた当時にとっては、まさに革命的な出来事でした。

偶然見つかった常識では考えられない現象を物理的・数学的に検証し、かつ、常識にとらわれない大胆な仮説を立て、緻密に検証し、新しい世界を拓いていく姿に、憧れずにはいられません。物理学者ってかっけぇなー。

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では、この辺りで今回の①は締めたいと思います。私が主に読んだ書籍を↓に書きますので、ご興味持たれた方はぜひ!

『「量子論」を楽しむ本』→数学的・物理的記述はないですが、理論の流れや歴史的背景が非常にわかりやすく丁寧にまとまっていて、あっという間に読めます。学習前に全体観を理解するにはすごく適した書籍だと思います。
『なるほど量子力学Ⅰ~Ⅲ』→おそらく専門書の中では一番詳しくかつ丁寧に書かれた書籍だと思います。3部作ですが、すべて理解すれば量子力学についてかなり理解できたと言えそうな内容です。
『素晴らしく実力がつくと評判の統計力学キャンパスゼミ』→量子力学の原点ともいえる<プランクの公式>を理解するには<統計力学>の理解は避けて通れませんが、この本が一番理解しやすかったです。とにかく数式展開が丁寧で、ほとんど詰まらず読めます。


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Toru Furushima

文系卒なのに物理と数学にハマり、noteにアウトプットしています。戦略コンサルでSenior Mgr、スタートアップでHead of Corporate Strategy Div. を経て、現在はITスタートアップでBusiness Mgrを担当してます。
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