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2022初冬で読んだ本


「サはサイエンスのサ」

 先日惜しまれつつもなくなった科学ライター鹿野司の『サはサイエンスのサ』。SFマガジン連載からの抄録ですが、テーマ毎に内容がまとまっていて読みやすく、語り口が平易であるよう工夫と努力があって素晴らしかったです。DNAの研究、そこまで進んでいたのか……と気持ちよくアップデートできたし、新型インフルエンザの項目は現代の感染症対策にも通じるよなと思ったり。
 どうして軽やかな文体で書いているかの職業的秘密が「あとがき」で開陳されていて必見。

竹田人造「AI法廷のハッカー弁護士」

連作集『AI法廷のハッカー弁護士』竹田人造/早川書房。登場人物の造形がうまいこと戯画化されたスレスレの嫌らしさで、映像映えしそう。デビュー作の『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』の登場人物もこういうチープに見えて格好いいタイプだったよな~と思いながら読みました。読後感が不思議と爽やか。
 AIが裁判官を務める近未来日本で、AIの穴をついて勝訴を収める不敗の弁護士は、AIの心証を良くするために人体改造も厭わないタイプ。しかもAI裁判の盲点を突いて、そりゃないだろうっていうスレスレの勝ちをなすりつける法曹界の鼻つまみ者。正義とは? 人が人を裁くとは? 根源的な問いで揺さぶられる法廷ガチファイトが楽しいです。

「楽園とは探偵の不在なり」
「新しい世界を生きるための14のSF」

 すっかり早川書房の回し者みたいですみません。同社の最近の百合推し傾向はnotformeです。
 それはさておき。
 斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』(ハヤカワ文庫JA)、ジャンルは特殊設定ミステリ。不可解な「天使」なる存在が降臨した近未来、2人以上殺した者は天使によって即座に地獄に引きずり込まれるようになりました。しかし探偵の招かれた孤島で連続殺人が起こります。果たして犯人はいかにして、神の裁きをかいくぐりそれを為しえたのか? 本格ミステリ、と書いてあるのできっと途中までのヒントでトリックが解けるようになってるはず。あ、もちろん私はさっぱりでした。「天使」がちっとも可愛くないので異形耐性が低い人は要注意。作者の読書日記にはお世話になっております。
 伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』ハヤカワ文庫JA/2022.6
 まだ八島游舷の「FinalAnchors」、斜線堂有紀「回樹」、高橋文樹「貴方の空が見たくて」、蜂本みさ「冬眠世代」、芦沢央「九月某日の誓い」、そして天沢時生「ショッピング・エクスプロージョン」しか読んでいないのですが、1編ずつに折りたたまれてる世界が重くって、一つ読んではぐわ~すごいもん読んだ~と感動して一回休み、またエネルギーを溜めて読む、とやってます。天沢時生「ショッピング・エクスプロージョン」のアオリが「探せ。当店のすべてをそこに置いてきた。増殖する商業施設をめぐる電脳冒険ロマン。」。「ONE-PIECE」と忍殺を闇鍋に放り込んだ最高に風流な一編です。

「TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す ヘンダーソン氏の福音を」7巻

7巻にしてやっと冒険者生活を始めたエーリヒ達! 魔法剣士と斥候のタッグで危なげなく冒険を……と思っていたら騒動に巻き込まれる才能を発揮してバッタバタと落ち着かない生活のはじまりです。それにしても低レベル冒険者の生活、楽しいですね~。


「理数研究の考え方」と「物語を忘れた外国語」


 最近サイエンスライターのお仕事に興味があるので、石浦章一『理数研究の考え方』ちくま新書。理数探究基礎の教科書を作ってるエライ人らしいです。お話の中身は面白い。やや上から目線なので要注意。
 自分が授業を受けてみたいランキングで近年上位、黒田龍之助『物語を忘れた外国語』(新潮文庫)は語学や文学が好きなら一読して損はないと思います。「海辺できれいな貝殻を拾ったり、神社の裏でドングリを集めたりするような感覚で、何かに役立てようというわけではないけれど、なんとなく付箋を貼ってしまう。」に付箋貼ってます。私も貝殻は洗って瓶に、ドングリは熱湯消毒して箱に入れています。


「調香師日記」

 先日も書きましたエルメスのオードトワレ「ナイルの庭」の作者、ジャン=クロード・エレナによる『調香師日記』(原書房)は、単なる日記に留まらない美への眼差しが記されている素敵な本です。「作ること」へのヒントがたくさん貰えました。わりと翻訳調ですが、原文が読みやすい(一文が短いし具体的な内容が多い)ので苦ではない範囲かな。

大好きなお茶を買う資金にさせていただきます