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#155 金沢の伝統工芸「金箔」づくりに欠かせない箔打紙

『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。

お見舞い

今回が、令和6年最初の放送になります。
皆さん、今年もよろしくお願いします。

本題に入る前に、この度の能登半島地震で被害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。
被害の状況がニュースで流れてくるたびに、本当に心が痛みます。
雪も降って、とても寒くて、復旧作業も困難な状況かと思います。
どうか1日も早く普通の暮らしに戻られることを、心から願っております。

今回はのテーマは金箔と紙

今回は、皆さんに石川県のモノづくりを知っていただきたい!ということで、金沢の代表的な伝統工芸でもある「金沢箔」とそこに使われる「和紙」をご紹介していきたいと思います。

「金沢箔」といえば、皆さん思い浮かべる、あのキラキラ輝く黄金の箔、通称・金箔のことです。
お仏壇とか、屏風漆器の蒔絵沈金なんかに使われていますね。
それ以外で言うと、金沢に行ったときに、金箔がまるまる覆いかぶさったソフトクリームが売られていて、すんごい驚いたのを思い出します。

そんな「金沢箔」ですが、昭和52年6月8日に、「伝統的工芸材料」に指定されています。
「伝統的工芸品」ではなく、「伝統的工芸材料」です。

そしてなんと、日本国内の金箔の98%以上が、金沢で作られているそうです。もう、圧倒的シェアです。ソフトクリームに被せたくなるくらいの、圧倒的シェアです。

それにしても、なんでこんな圧倒的なシェアがあるのか?
ことの発端は、江戸時代に出された「箔打ち禁止令」まで遡ります。徳川幕府が、経済統制のために、金箔の製造を厳しく取り締まりました。
その「箔打ち禁止令」によって、江戸と京都以外では箔打ちが禁止されることになります。
しかし、加賀藩はこの禁止令を横目に、密かに箔打ちを続けます。いわゆる密造ってやつですね。
そして、密造していたどころか、なんとめちゃくちゃ技術を確立していきます。密造、そして技をちゃんと磨いていたんですね。
そして、「箔打ち禁止令」も廃止になった江戸時代終盤の1864年に、加賀藩は御用箔の打ち立ての免許を取得します。
これをきっかけに、金沢箔が国内でフィーバーします。質・量ともに国内での地位を駆け上がっていきます。
下積み時代を懸命に耐えた金沢箔は、全国域に広がっていくわけです。
その流れが、現在まで続いている。そんな感じです。

そんな金沢が全国に誇る金箔ですが、実は、金箔は日本の専売特許ではなく、世界各地で製造されているそうです。
日本のほかでいうと、現在では、フランス、ドイツ、イタリア、インド、ミャンマー、タイ、韓国、中国などでの製造が確認されているようです。
国によって金箔を作るときの技術が違うみたいで、日本の金箔はなんと言っても和紙を使うところに最大の特徴があります。
この金箔を作るときに使われる和紙ですが、実はめちゃくちゃいい働きをするんです。
むしろ、和紙の出来によって、金箔の出来が決まると言っても過言ではないんです。

というわけで、これから、金箔の作り方を簡単にご紹介しつつ、どの工程でどんな和紙が使われているか、というところも一緒にご紹介していけたらと思っています。

金箔には2種類ある?!

まず、その前に、金箔には大きく分けて2つの種類があります。
一つ目が、伝統的な製法で作られる「縁付(えんづけ)金箔」。それから、近代以降の製法で作られる「断切(たちきり)金箔」です。
この2つの一番大きな違いは、箔打ちのときに使われる紙です。
まず、「縁付金箔」で使われるのは、雁皮で漉かれた和紙
一方の「断切金箔」は、グラシン紙という紙が使われます。
グラシン紙というのは、詳しくは別の回でご説明するとして、身近なもので言うと、例えば、肉まんの下にくっついている紙、それから、ケーキの下にくっついている紙、それから、クッキングペーパー。いわゆる、耐水・耐油紙の一種です。
ちなみに、「縁付金箔」と「断切金箔」ですが、本当に失礼を承知で言うと、僕みたいな素人目には、どっちがどっちか分かりません。
何が重要かというと、紙が薄くて丈夫で平滑なこと。
和紙の中でも薄くて丈夫で平滑な紙といえば、そう、雁皮紙ですね。なので、伝統的には雁皮紙が使われているんですね。

金箔の作り方

さて、それでは、金箔の作り方をご紹介していきます。
皆さん、金箔の作り方知ってますか?
まあ、なんとなく想像できますね。
“金をめっちゃ薄く伸ばしていく。”
これで一応正解だと思います。

伝統的な金箔(「縁付金箔」)の製造には、大きく分けて3つの工程があります。
「澄(ずみ)工程」、「箔工程」「紙仕込み」です。

まず、「澄工程」
金箔の原材料は、そう、金ですよね。
元々の金って、マグロの切り身みたいな分厚い状態、イメージできますかね。
あれを1/1000mmもの薄さに伸ばして、20cm角に伸ばしていく、という工程。
これが「澄工程」です。

次に、「箔工程」
これは、仕上げのような作業です。
まずは、「澄工程」で出来上がった20cm角の金箔を、だいたい規格のサイズくらいに切り分けていきます。
そして、箔打紙に挟んで、最終的に1/10000mmもの薄さに伸ばしていきます。
1/10000mmがどれだけ薄いかと言うと、ちょっとした風とか静電気で破れてしまうくらい、だそうです。
かなり繊細な作業が求められるわけです。

そして最後の「紙仕込み」
これは、金箔の製造に使われる紙の仕込みの工程です。
実は、金箔の製造に使われる紙は、工程ごとに種類が異なります。
まず、「澄工程」で使われる「澄合紙」、「箔工程」で使われる「箔打紙」、出来上がった金箔を保存するときに使われる「箔合紙」。大きくこの3種類です。
代表して「箔打紙」をご紹介します。
製紙メーカーから仕入れた雁皮紙、これに、灰汁汁・柿渋・卵の白身と黄身を混ぜ合わせた液体を浸透させていきます。
柿渋は紙を強くして、卵の白身と黄身は紙を滑らかにする役割があるようです。
簡単に言っていますが、この工程が、とっても時間がかかるし、とっても重要なんです。
先ほども言った通り、箔打紙の出来が、金箔の出来を大きく左右します。
この工程を、製紙メーカーではなく、金箔のメーカーが伝統的にやっているそうです。
すごいですね。

この金箔の工程、本当に細かくて、全然紹介しきれないので、もっと詳しく知りたい!と言う方は、金沢金箔伝統技術保存会さんのホームページに、とっても分かりやすく紹介されているので、ぜひそちらをご覧ください。

箔打紙の機械化

ちなみに、近代以降の「断切金箔」は、「紙仕込み」の工程がまるまるなくなったと思ってください。

1980年に、金箔を製造されていた浅野さんという方が、箔打紙の工程の機械化に成功しました。
ここで、従来の50倍の生産効率に、ぐんと飛躍します。

いろんな伝統工芸で言われていますが、機械化って、手工芸の対極みたいな感じで取り上げられることが多いんですけど、こうやって、必要な部分を機械化して、必要な部分は手作業で残すみたいなやり方って、とても理にかなっていますよね。

江戸時代の「箔打ち禁止令」の中での技術の向上を見ても思うんですが、金沢にはこのような、これと決めた分野に対するすごく効率的な技術革新の力があるように感じますね。

というわけで、今回は、金沢が世界に誇る金箔とそこに使われる紙について解説してきました。いかがだったでしょうか。

それでは、本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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