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-不健全な片思い

 絶対にどうにもならないのに好きになった場合、時間が経つのをじっと待つしかない。何もせず、視界にできるだけ入れず、会話を慎み、相手の声が聞こえても動じず、話しかけられても冷静に、話しかけても慎ましやかに、悟られないように、心の声に惑わされないように。理性のみを働かせて、思い浮かんでくる幻想は一つ一つつぶして、ひたすらに待つしかない。
そうやって忘れようとした。
忘れられなくて嫌いになろうとして、でも簡単にいかずにまた心が折れて、どっちに転んでも心は折れるばかりでそんなことを繰り返していたらもう1年が経って。ただの憧れだったらよかったのに、手が届くところに近づいてしまったせいで手が届くんじゃないかと勘違いして。

今ならわかる。
ああやって構われていたのは、私を見ていたんじゃない。
自分の一番近しい人が、自分を見てくれない・愛してくれないことの反動から、同じように寂しさや孤独感を感じる人間を嗅ぎすましてたどり着いただけの関係。私自身へ向けるまなざしなど一瞬もない。やっとわかった。近くにいるのにここまで疎遠になって、お互いに空気のようになって、視線も合わせず、不自然なほどに淡々としているのが気持ち悪い。一人突っ走りたくなった夜はいくらでもあった。そのたびに相手の周りの人が浮かんで、会ったことも喋ったこともないような人を思い浮かべては悲しくなって、辛くなって心の中すべてを葬り焼き尽くした。いつか忘れられることだけが救いで、毎日顔を合わせることを恨めしく思いながらひたすらに過ごした。
 何度も忘れようとしたこと、話しかけたくても諦めたこと、誘われて嬉しかったのに断ったこと、絶対に気持ちを表に出さなかったこと。
相手のためであるようで、全部自分のためにしたこと。私が流されやすく欲深く手に入りそうなものを全て欲しがるからこそ、絶対に避けないといけなかった。突っ走った気持ちに任せて、実現しない口約束をしたり、気持ち悪いくらいの褒め言葉を言ってみたりした。そんなものはどこにも残らないし、忘れてしまえばそこまでなのだから何も役には立たない。


 追いかけっこに成功して追いかけっこを辞めた大勢の人たちは幸せそうにみえる。自分と、自分が心を許せた人とだけ作れる空間とお城の中で安心を手に入れて、外の辛い世界でも帰る場所を思って戦えて。私には私がついているって強がってもやっぱり外で傷つけば簡単に治らない。自分一人で直せない傷がどんどん増えて、頑張っても頑張ってもダメなんだって思い知ることもあって、生きてる意味とか、いてもいなくても変わらないのかとか、考えなくていいことまで考えて、死ぬことの方が美しく見えて。
私はどうかしてしまった。家族と会えなくなって、家族との距離感が分からなくなって、一人でも平気な顔をして仮面をかぶりその中でひっそり泣き、どうにもならない心を慰めもできずその辺に転がしほったらかして考えるのをやめて。周りが幸せそうにみえる。安心できる城の中にいるように見える。生きるのをあきらめたくなる瞬間がある。こんなに体は元気で、手足も自由に動かせて、それなのにもう、この人生終わらせたいと思っている。
 この先、私は過去の私になんて投げかけるんでしょうか。
生きててよかったとか、死ななくてよかったとか、もっといいことがあるから頑張れとか、そういうことを言っているんでしょうか。マンガの主人公みたいに強く生きられない。打たれるたびに地面に食い込み、心配してくれても強がってしまう。助けてほしいのか、頑張りたいのか、自分でも分からない。私は生きていていいんでしょうか。未来の私が読んでいるなら教えてください。心の底から笑えてる?安心できる、立ち上がれる空間がある?それとも、元気なうちに美しくきれいなままで終わらせた方がよかった?
不健全な片思いのおかげで少し頑張る意欲を取り戻せたけど、ばかな私は溺れすぎて自分の首を絞めました。
意識を失うように死んでしまいたい。弱い人間です。