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【小説】デニーズでヘッジファンド

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(ランダム単語ガチャを使った企画です)


   ***

 俺は運ばれてきた和風ソースのハンバーグを見下ろす。肉の香りを吸い込んでから、尋ねた。

「俺を呼んだ理由はなんだ?」

 相手はスマホをいじりながら、一瞬だけ俺を見た。だがすぐに視線を外す。彼の頼んだカットステーキはまだ来ない。先に食べてしまって悪いな、という気持ちもあるが、それ以上に腹が減っているので、すぐに箸を持った。

「しかも、どうしてデニーズなんだ」

 返事はない。

 俺たちの仕事は、端的に言えばあまり大きな声では話せないようなものだ。表か裏か、で言ったら思いっきり裏。
 そんな人種が、秘密の相談をするためにデニーズで食事、というのはなんだかおかしい気がする。少し気恥ずかしい。

「だけど、美味いな」

 俺がそう言うと、彼はようやく口を開いた。

「ああ、デニーズはいいぞ」
「そうだな。デニーズは最強だ」
「ずっとデニーズでいいくらいだ」

「いや、それはない」


 このタイミングを逃さず、俺は尋ねる。
 もう一度、どうしてここに呼んだのか。ということを。

「……それは」
「どんな理由だ?」


「……ヘッジファンドってなんだ?」

「……はぁ?」

 俺は耳を疑った。ヘッジファンド? 急になにを言い出すんだこいつは?

「先日、俺は取引先で商談を行った。お前も知っているとおり、結構デカい取引でな。ボスからも失敗は許されないって」
「けど、俺はお前から直接『失敗のしようがない』って聞いたぞ」
「ああ、確かに言った。だが……」


『私の考えでは、我々は、ヘッジ・ファンドに投融資を行っている金融機関への適切なプルーデンシャル・ルールや報告義務、特に、規制が緩いとみられるオフショア・センターに設立されているヘッジ・ファンドについて、また、ヘッジ・ファンド自身に対するディスクロージャーや報告義務などの措置を検討するべきであります』

「とか言い出しやがったんだ」

「なんて?」

「それに俺はよく分からないまま、『ああ、それでいこう』とか言っちまったんだ」
「なんで?」
「後から考えたんだが、もしかしたら相手の野郎、俺がなにも分からないであろうことを利用して、適当なことを言ったのかもしれねぇ。取り返しのつかないことをしたかも……」

 彼が言った徹頭徹尾わけの分からない発言に、少しばかり目眩がした。確かに、意味が分からない。ヘッジファンド? というか、それだけじゃなくて、異世界言語みたいな単語が2、3個あった気がするが。
 そもそもよく覚えていたな。

「なあ、分かるか?」
「いやいやいや! 分かるわけねぇだろ!」
「畜生! 俺はもうおしまいかもしれねぇ!」
「諦めるな! 今から勉強すればいい!」

 すると相手は素早い動作でスマホの画面を俺に見せてきた。

「もう調べた! その上で、さっぱり分からねぇと言っているんだ!」


『ヘッジ(hedge)は「避ける」を意味し、資産の運用においては、「リスクをできる限り軽減する」という行為を指します。
典型的な例としては、株式などの下落する可能性のある金融資産を保有する場合は、先物もしくはインデックスを売ることによって、損失のリスクを可能な限り軽減することです。
まとめてみると、ヘッジファンドとは、多様な取引手法で、リスクをできる限り避けて利益を追求するファンドとなります』


「うおおおおおおーーーーッ!!! 分からねぇ!!」

 俺たちはデニーズにいることも忘れて、未知の言語群に恐れおののいた。なんだこれは。読んでいっても、頭の方からもう忘れていく。正確に言えば、最初から覚えることを脳が拒否している。

「ま、まて! ヘッジが『避ける』という意味なのは理解できる。あと、リスクを避けつつ利益がどうのこうのって話らしいぞ。ここまでくれば、後は想像するしかない!」

 

 俺たちは運ばれた料理も無視して、想像力を働かせた。ちなみにデニーズの料理は、当たり前でもあるが、冷めたら美味しさは半減する。もしデニーズに行くやつがいるなら、絶対に気をつけるべきだ。

「ファンドは『資金』って意味らしい」
「じゃあ資金を避けるのか?」
「……かもしれない」

 勘が良くない人でも分かるだろうが、俺たちには学がない。

「資金を避ける……あえて、儲けようとしない、とか?」
「だが利益を追求するって書いてあったぞ」

「……それはつまり、最終的に利益を得るってことだ。要するに、欲を持たないってことじゃないか?」

「そうか! 無欲でいること、無欲でいることで、結果として金を呼び込もうとするってことだ!」
「だが、相当難しいぞ。結局、金のために金のことを忘れろってことだろ? できるのか?」

「だからこそ、厳しい修行をしなくちゃいけないのかもな……」

「……答え、見つかったな」


 俺たちはハンバーグとカットステーキをそれぞれ頬張り、眼を合わせた。相手の眼光はすっかり凜々しいものになり、きっとそれは俺も一緒だろう。

「いくしかねぇな」
「ああ、利益のためだ」


 数日後、俺たちは山に籠もり始めた。せっかくだからって理由で頭も丸めた。滝に打たれて、山菜を採って食べた。デニーズの肉の味を時々思い出すが、頑張って堪えた。

 これもすべて、ヘッジファンド。利益のためだ。
 おっと、利益のためなんてことを考えてちゃ駄目だ。まだまだ、修行が足りないってことだな。


 それでも、たまに思うんだ。静かな夜とか、寝る前に。


 ヘッジファンドの意味、合ってんのかな、って……


***


マジでヘッジファンドってなに? いきなりこの単語出てきた私の気持ちよ。辛い。
ちなみに、途中に出てきた説明は全部コピペです。私はまったく理解できませんでした。みなさんも、このランダム単語小説、試してみてね。今度はもっと単語数を増やすつもりです。
それから、デニーズで食べよう。デリバリーもあるからね。

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