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憧れ合うと人は自然と溶け合うようにお互いのことを確認し始める。それぞれの望んだ形で。時には相手の望んだ形を模倣できるように訓練する必要がある。
二十数年も生きて仕舞えば元あった自分の形などもうすでになくなっている。川の上流のごつごつした石ころは摩擦で柔らかく丸くなっていくように、わたしの形は日々変わっていく。

溶け合うことは怖い。水面に指で触れては放射状に拡散していく衝撃を生きた人間で実感することは、どこか罪悪感を覚える。わたしの好きだったその人がわたしによって崩れてしまうのではないか、とか。見ているだけで暖かそうな陽だまりに影を落としてしまうような、そんな気がして。

わたしがわたしを許すことは、自分が溶け合うのを許すことなのかもしれない。触れ合う手を懸命に繋ぎとめようと、左手に力を込めることかもしれない。輪郭をどろどろに溶け合わせてひとつになることは、恐るるべきでないのかもしれない。我々人間はこの世界においてすでに一つであるから。

おばあちゃんと浴槽で手を合わせた感覚を思い出した。その頃はなにもわかっていなかったけれど、あれだけ大切にされた思い出は、大人になった今考えると宝物だなあと思う。私はあれだけ誰かを大切にできるのだろうか。人を愛せるのだろうか。わがままを通さずに、そのままを受け入れられる器量があるのだろうか。

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