見出し画像

イメージを背負う分、ラジオで素を出したい【竹下幸之介さん(DDTプロレスリング)インタビュー】

Radiotalkで活躍する音声配信者「ラジオトーカー」を紹介していく連載インタビュー企画。今回は、番組『ラジオの炊いたん』を配信する竹下幸之介さんにフォーカスを当ててお届けします。

DDTプロレスリング所属のトップレスラーである竹下さんは、大阪市西成区出身の26歳。小学生からレスラーを目指し、運動能力を高めるための陸上競技や実戦を学ぶためのアマレス競技、上腕筋を鍛えるための和太鼓、さらに海外進出も見据えた英会話など、17歳のプロデビューに至るまで「逆算」の人生を積み重ねてきたといいます。

画像1

2020年10月、コロナ禍での無観客試合など業界の様相が変わるなか、竹下さんはファンに向けた新しい発信として音声配信を開始。現在は約3000人のフォロワーを持つ人気番組となっています。

往年のファンもギャップに驚くという、竹下さんの「ありのまま」な音声配信スタイル。そこに込められた思いとは──。

(取材・文/鼻毛の森

自分を発信するならラジオで、と思っていた

ーー音声配信を始めたきっかけを教えて下さい。

竹下:Radiotalkからいただいたスカウトがきっかけです。DDTプロレスは、レスラーそれぞれがセルフプロデュースをする団体なので、TwitterやInstagramでの発信は以前から行っていましたが、ラジオのような発信をずっとやってみたかったこともあり、迷いなく始めてみることにしました。

ーーラジオがもともと好きだったんですか?

竹下:中学校時代からラジオ好きで。録音メインのサイレントリスナーではあったんですけど、お笑い芸人のダイアンさんのラジオなどは第1回から欠かさず聴いていて、憧れていました。

ただ、自分がやるとなると、収録や編集が大変というイメージが強くて。だからこそ、スマホ一つで発信できる方法があるなら、やらない手はないだろうと。

ーーどうして映像配信ではなく、音声配信を選んだのですか?

竹下:そもそも、自分の顔が映像に映ることが好きではないんです。レスラーとしてのキャラクターを作ってしまって、自然体でいられないというか。

レスラーとして上京した18歳のころ、ホームシックになったのですが、インターネットやアプリ経由で聴けるようになり始めた故郷のラジオに元気をもらっていたというのもありまして。自分を発信するならラジオで、という思いが強かったです。

ーー第1回目の配信、緊張はありましたか?

竹下:大阪人で根はおしゃべりなので、普段のノリでしゃべっての“録って出し”でした。誰が聴いているかもわからないので、逆に緊張もなかったですね。当然、最初はプロレスファンの方が聞いてくださるわけですが、「こういうのをやってほしかった」という反響が多くて、ホッとしました。

ラジオが作る“閉鎖空間”の心地よさ

ーー「ラジオの炊いたん」というタイトルが印象的ですが、この由来は?

竹下:「炊いたん」っていうのは大阪弁で、煮物全般を指すんですよ。僕のおばあちゃんもよく「お肉を“炊いたん”作っておくよ」とか言ってて。大阪弁を使ったタイトルにしたかったというこだわりと、プロレスにとらわれない、「ごった煮」の内容を届けたいという思いを掛け合わせて、このタイトルに着地しました。また、大阪人は言葉の矛盾を楽しむ性質なので、タイトルからツッコミが入るようにと思いまして。

ーー番組開始にあたって、コンセプトは考えましたか?

竹下:まず、「プロレスラー・竹下幸之介のファンになってほしい」という意識ではやらないでおこうと決めました。

純粋なラジオリスナーって、基本的には閉鎖的な空間の心地よさを求めているものと思っているので、トークの内容をなるべく深く狭くして、その内容を好きな人だけが楽しめるようにと思ったんです。僕自身を出すためには、プロレスや団体を背負わず、僕だけの小さな村を作りたいなと。

ーーあくまでひとりの人間として。

竹下:もともとプロレスラーのトークイベントって、東京開催が多いんですよ。子どもの頃は大阪在住でしたから、好きなレスラーのブログを読み漁って、試合では見えない素の部分を少しでも知ろうと頑張っていたんです。なので、Radiotalkでは、当時の僕がレスラーに求めていたパーソナルな部分をそのまま届けられる場にしようと思ったんです。

Radiotalkを、感情と表情を残せる備忘録に。

ーー普段はどんな環境で配信していますか?

竹下:iPhone一台だけで、標準の内蔵マイクに向かってしゃべっています。時々フリーBGMが乗っているのも配信するのですが、iPadのスピーカーから流しているものを単純にマイクで拾っているだけ。リハーサルも編集もしない、本当の一発勝負です。

ーー収録トークとライブ配信、それぞれどのように使い分けていますか?

竹下:今はライブ配信が中心ですね。週に最低1回は必ずと決めていて、だいたい1時間半ほどしゃべります。収録トークについては当初ほどのペースではないですが、残しておきたいことを簡潔にまとめるため、不定期で続けています。

ーーラジオの雰囲気抜群な竹下さんの「タイトルコール」ですが、する回もあれば、しない回もありますね。なにか判断基準があるのでしょうか。

竹下:しゃべることを決めて「今からやるぞ」と気合が入っているときには、「さあ!」ってノリでタイトルコールしますね。ただ、最近はしゃべりたいことをあまり溜め込まず、衝動のままに配信をスタートすることが多くなってきたので、しないことも増えてきました。タイトルコールをしないときは「どうでもいいことをしゃべってるんだ」と思ってもらえたらと(笑)

ーーそのとき感じたことをそのまま、という配信スタンスなのですね。

竹下:素のままですね。飲み会で友達としゃべって、盛り上がった話をそのまま帰り道に発信することも多いのですが、ナチュラルであるほどリスナーさんが喜んでくれるという傾向も分かってきました。

僕はエピソードトークのメモ代わりにnoteへ出来事を書き溜める習慣があるのですが、Radiotalkは手軽なボイスメモの感覚で活用しています。瞬間に感じたことって、あっという間に忘れてしまうので、そのときの熱量ごと伝えられて、さらに残せる環境があるのは、非常にありがたいですね。

まず音声で配信し、Instagramで「答え合わせ」

ーーリング上とは異なる一面を感じられる「企画配信」が人気ですね。

竹下:最初はただ雑談をしてたんですよ。それに対してコメントを返していたのですが、「この繰り返しでいいのかな」と思うようになって。

そこで思いついたのが、「動画でしか成立しなさそうな企画を、あえて音声だけでやる」という企画です。まずは、とある子ども向けの雑誌に付録だった、とあるパンメーカーの配送トラックのクラフトキットの組立てから始めました。

ーーまたマニアックな……

竹下:僕、パンとトラックが好きなので、トークで実況しながら、クラフトが完成するまでを生配信したんですね。

リスナーの皆さんには、トークから状況や出来栄えを想像してもらって。その後、完成したものをInstagramにアップして、答え合わせをしてもらうという企画だったのですが、これが過去最大の反響につながったんです。「ああ、こういうのでいいんだ!」と。

ーー「美文字練習」にも取り組んでいらっしゃいますね。

竹下:習字などの特技があるわけじゃなく、単純に字をきれいにしたいなと思って始めました。一人でやるぐらいなら、みんなで楽しんでもらいながら上達したいなと。最終的にはInstagramにアップするので、見られる緊張感もありますし。これが終わったら、TOEICか英検に、みんなでチャレンジしようと思っています。

「コンプレックスをくすぐられた」ゆとりフリーターさんとの出会い

ーーRadiotalkを通じて「友人」も生まれたとか。

竹下:人気トーカーのゆとりフリーターさんですね。いまのところ、僕にとって唯一のコラボ相手です。

ーーゆとりフリーターさんとは、リアルでの交流も?

竹下:いえ、実はリアルでお会いしたことがなくて。純粋にRadiotalk上だけでの接点からはじまりました。ほかのトーカーさんの配信も聴くのですが、なかでもゆとちゃんはとにかくトークが面白かったのと、同世代であるという親近感から、耳に止まったんですよね。

ゆとちゃんのTwitterをフォローして、自然と絡むようになったのですが、今では旦那さんと僕の試合をすべて観戦してくれているようで。番組内でもそれを話題にしてくれたりと、つながりは濃くなっています。

ーー竹下さんは、ゆとりフリーターさんのどんなところに惹かれたのですか?

竹下:シンプルに一人しゃべりを成立させていることがかっこよくて、尊敬できると思えました。二人しゃべりだったら、それぞれの価値観や考え方をぶつけて新しいものを生み出しやすいと思うのですが、ゆとちゃんは一人のトーク力で人気になっている。あと、同世代っていうのも大きくて。コンプレックスもくすぐられています。

ーースター選手である竹下さんのコンプレックスを刺激するとは…… 相当ですね。

竹下:ありがたいことに僕はいま、団体でもプロレス界でもいい位置にいて、実力的には「日本に敵なし」とも思っています。ただ、アスリート界全体を見渡したら、野球ではエンゼルスの大谷選手とか、巨大な壁があるわけじゃないですか。

僕は高校生で武道館デビューを果たして、プロレスの世界では早くに夢を叶えました。ですが、その夜のスポーツニュースの話題は、夏の甲子園だったんです。そして20代中盤を迎えたいま、歌手や作家、映画監督など、あらゆる分野で同世代の人々が結果を出し始めています。

負けていられない存在がたくさん増えてくるなかで、いま、Radiotalkという同じフィールドにいるゆとちゃんに、特に刺激を受けているんです。

ーーゆとりフリーターさんとのコラボ配信で、「プロレスラーとしてトップを目指したいが、有名人にはなりたくない」と話されていたのが印象に残りました。

竹下:素の僕自身は、不特定多数の人に知られるのは怖いですし、忙しいのが嫌な人間なんですよね。ただ体型的に、日本人の中では1パーセント未満のサイズなので目立ってしまう……。武器でありながら、同時にコンプレックスでもあるんです。

プロレスラーとして有名になるのは宿命として背負えますが、竹下幸之介個人としては有名になりたくない、という本音の一部が、ラジオだと出てしまいましたね。

プロレスラー以外に残された道は「ラジオパーソナリティ」

ーー2021年2月には、MBSラジオ『あどりぶラヂオ』で地上波ラジオのパーソナリティも担当されました。

竹下:Radiotalkがきっかけとなって、『あどりぶラヂオ』に出演させてもらいました。収録放送だったのですが、僕がいいタイミングで曲紹介をしたように編集もしてくれて。音楽とラジオは切っても切れない関係と思っていたので、自分の好きな曲を紹介して、その曲が電波に乗った瞬間はしびれましたね。

ーーこれをきっかけに、地上波パーソナリティへの夢も?

竹下:僕は「プロレスラーになる」という夢は叶えました。その先には海外での活躍など、まだまだ夢はあるのですが、MBSラジオへの出演をきっかけに、僕の人生でプロレス以外で残されている夢はラジオパーソナリティなんだと思えるようになりました。

まさか、こんな形でラジオと繋がるとは夢にも思いませんでしたが、ラジオパーソナリティの夢もいつか叶えられたらなと思っています。

イメージを背負う分、素を出せる場所を大事にしたい

ーーRadiotalkでの配信を通じて、影響を受けた部分はありますか?

竹下:感動したことや、面白いと思えることに敏感になりました。僕は「ネガティブな内容を発信しない」と決めているので、「ポジティブな出来事を覚えておこう」という習慣づけがより強くできるようになったと思います。

なにより、面白いファンの方との出会いが増えました。これまでは握手会などで試合の感想や応援の言葉をいただくことが主だったのですが、Radiotalkを始めてからはラジオの小ネタやリスナーネームをきっかけに話が広がったりと、コミュニケーションの幅が増えたと思います。

ーー竹下さんにとって、リスナーはどんな存在ですか?

竹下:一言で言うと、「特別な存在」です。応援してくれるファンの中でも、同じラジオ好きとして共感できる、人間として身近な存在かなと。

僕がデビュー以降伸び悩んでいたとき、エゴサーチで見つけたネット批判に悩んでいたこともありました。そういうときって、応援してくれる声を見落としがちになるのですが、より近いところで、人間として応援してくれる人がいることが、事実として感じられるようになりました。この変化は大きいですね。

ーー竹下さんにとって、Radiotalkはどんな場所ですか。

竹下:自分らしくいられる場所ですね。

プロレスラーとしては団体のチャンピオンとして、ふるまい方も戦い方も「こうあるべき」というイメージを背負っていますし、Twitterもプロレスラーとしてフォローしてくれている人がほとんどなので、その「強さ」が崩れるような、よもやま話はできないと思っています。

プロレスラーとしては、子供の頃に描いた像を超えてしまっているので、プロレスラーとして凛とし続けるためにも、素の部分を思いっきり出せるRadiotalkという場所は、しっかり大事にしていきたいと思っています。

1タップで誰でも今すぐ音声配信!Radiotalk(ラジオトーク)
アプリはここからダウンロード(iOS版/Android版)