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2011年の業界キーワード30=現在までの成りゆきに思うこと

2011年発売のリサーチ業界で話題になった「次世代マーケティングリサーチ」を、当時の私は読みながら、最新事例にちりばめらたコンテキストから勝手にキーワードを30個拾っていた。

まもなく2010年代も終わりを迎えようとしている。当時の業界キーワード30が、あれから2019年現在までどう動いたのか、<Googleトレンド>のウェブ検索人気度動向で調べてみた。

2011年の「次世代」を振り返ってみると、キーワードの生きざまを垣間見ることができた。

【キーワード30(おそらく登場順)】
1:トリプルメディア
2:クールハンター
3:バズネットワーク(バズ分析)
4:グランズウェル
5:エスノグラフィー
6:バイオメトリクス
7:バスケット分析
8:キュレーション
9:ペルソナ
10:ストックデータ
11:フローデータ
12:ABテスト
13:シンセシス
14:アブダクション
15:MROC
16:WE RESEARCH
17:シチズンリサーチャー
18:予測市場
19:VOC
20:AISAS
21:CGM
22:デジタルサイネージ 
23:ジオタグ
24:ライフログ
25:アクセス解析
26:ログ解析
27:データビジュアライゼーション
28:Wi-Fiタグ
29:RFID
30:ニューロロジカルリサーチ

軒並みダウンしていくキーワードたち

多くのキーワードが、掲載された2011年をピークに2019年まで検索人気を落としている。2011年~2019年でGoogleトレンドの指数の推移でみると、2011年のスコアが100になり、現在は25前後まで落ち込んでいる。

【2011年をピークに減少を続けるキーワードたち】
1:トリプルメディア
5:エスノグラフィー
6:バイオメトリクス
15:MROC
18:予測市場
19:VOC
20:AISAS
21:CGM
22:デジタルサイネージ 
25:アクセス解析
26:ログ解析

これらのキーワードは、確かに当時流行したが、その後期待に沿わず関心を落としたグループなのだろう。リサーチやメディアの手法が並ぶのは、偶然なのだろうか。

トレンドすら集計されないキーワードたち

さらに、Googleトレンドで傾向を調べようとすると「ここに表示するデータはありません。」と、悲しいメッセージとともに集計すらできないキーワードがある。

【集計されないキーワードたち】
2:クールハンター<=消費リーダーのこと>
3:バズネットワーク(バズ分析)<=口コミで形成されるネットワーク>
4:グランズウェル<=大きなうねり>
10:ストックデータ<=ある時点のデータ>
11:フローデータ<=ある期間のデータ>
17:シチズンリサーチャー<=ブログや日記を分析すること?>
28:Wi-Fiタグ<=Wi-Fiを受信する装置・機能>
30:ニューロロジカルリサーチ<=自己認識レベルを捉えること?>

これらのキーワードは、確かに当時話題になっていたかもしれないが、残念ながらブレークスルーすることなく現在にいたっている。
バズネットワークはSNSに、ストックデータはビッグデータに、Wi-fiタグはビーコンに、とキーワードの意味する座を奪われたものもあるが、その意味にすら「?」がつくキーワードもある。

異なる意味を持ったキーワードたち

今回の調査対象となったキーワード30は「次世代マーケティングリサーチ」の中で取り上げられたものだが、その後まったく違う場面で使われることで、突発的に人気度を上げたキーワードがある。

【異なる意味をもったキーワード①】
9:ペルソナ=典型的な人物像のこと
  ↓
アトラスより発売されているコンピュータRPGのシリーズ。2016年9月に『ペルソナ5』が発売(2016年10月に突出)。
【異なる意味をもったキーワード②】
13:シンセシス=仮説を立て、新しいをつくる統合分析
  ↓
「ソードアート・オンライン」の登場人物。アリス・シンセシス・サーティ。(2019年2月に突出)
【異なる意味をもったキーワード③】
14:アブダクション=推論法の1つ。仮説的推論。
  ↓
ゲーム「ファンタシースターオンライン」上のフィールドの1つ。誘拐という意味。(2013年11月に突出)

この3つは、フィクションの世界(特にゲームの世界)での固有名詞として採用され姿を変えた。商品化の発表や発売時の時期に、おそらくファン層が盛り上がりキーワードのスコアを押し上げたのだろう。ただ、盛り上がったといいながらも、その立ち上がりは継続してはいない。

【異なる意味をもったキーワード④】
8:キュレーション=特定のテーマに沿って収集した情報を編集し、新たな価値を付与すること。
  ↓
大手キュレーションサイトで発覚した、著作権侵害・不正確情報ニュースとサイト閉鎖。(2016年12月に突出)
【異なる意味をもったキーワード⑤】
23:ジオタグ=ある情報に紐づく位置情報
  ↓
iPhone6発売(2014年10月に突出)

次の2つは、関連したニュースによってスコアが押し上げられたもの。2016年のニュース以降キュレーションサイトを盲目的に信頼している人は減ってしまった。思い起こせば、SNSの位置情報が正確だの不正確だので盛り上がった時期もある。ニュースの話題性も決して長引くものではない。

【突出した理由が不明⑥】
16:WE RESEARCH=みんなで収集・観察・予測する
  ↓
???(2018年4月に突出)

最後の「WE RESEARCH」は、当時の業界キーワードであるが、一般文でもある。確かに、Googleトレンドはスコアを出し、2018年に最も高いスコアを出すのだが、何の意味なのかわからない。

あるキーワードに異なる意味が重なることで、その価値が高まり、次の世代に進化を遂げることがある。ただ、ここにあげたキーワードは突出してことによって、何か進化を遂げたものではないようだ。

キーワードの成りゆきから思うこと

ここまでキーワードたちの趨勢を見て、これらの推移と似た考え方を見つけた。それは「ハイプ・サイクル」という考え方だ。

新しい技術が世の中に浸透するまでの過程を描いたこのグラフは、
 ・黎明期(=新しい技術などが発表され関心を集める時期)
 ・流行期(=世間の注目を集め、過度な興奮と期待につながる時期)
 ・幻滅期(=期待に応えられず関心が失われ、話題にもならない時期)
 ・回復期(=話題にならずも、本来の利点を理解した取り組みが継続し、成功しはじめている時期)
 ・安定期(=技術が徐々に安定。生産性を高め、次世代への進化をはじめる時期)
という5つの段階から構成される。

<2011年からダウントレンドのキーワード>は、幻滅期から回復期に移れていないものたちであり、<トレンドすら集計されない>のは、黎明期のまま、流行期に移ることもできなかったと考えられる。

<異なる意味を持ち突出した>時期は、そのキーワードの回復・安定への機会だったのかもしれないが、なかなか活かしきれなかったと考えてもよいのかもしれない。

ハイプサイクルの考え方に、賛否があるが、確かに流行の動きと合致している部分はある。ただ、ハイプサイクルの見た目ほど、人気度が急激に上下するわけではなく、実際には9年をかけて徐々にその動きを変えているものが多い。

成熟にむかった優等生たち

多くのキーワードが苦しむ中で、優等生といえるキーワードもあった。

【優等生といえるキーワードたち】
7:バスケット分析
12:ABテスト
24:ライフログ
27:データビジュアライゼーション
29:RFID

流行期にたどりついた<ライフログ>。
ライフログは、2011年から2012年にかけて人気度をあげている。黎明期から流行期に駆け上がっている。残念ながら、その後人気度は落としているので、今は幻滅期の中かもしれないが、黎明期を突破している。

安定期をじっと進む<データビジュアライゼーション>。
データビジュアライゼーションは、唯一突出する時期もなく横ばいに進んできたキーワード。一般語という特性もあるが、デザインを重視する社会の中で徐々に、徐々に理解されているのかもしれない。

幻滅期を乗り越えた<バスケット分析>。
バスケット分析は、2011年直後にスコアを落とすが、当時の半分ぐらいで踏ん張っているキーワード。2011年ごろが、バスケット分析の利点が理解されはじめ、安定期に差し掛かっていた結果だったのではないか。

回復期へとやってきた<RFID>。
RFIDの動きは涙ぐましい。2011年からダウントレンドになっていたが、2017年に下げ止まり、今、回復の傾向が見える。実際に、衣料店の「GU」が商品タグにRFIDを埋め込み無人レジを実現したのが2017年。そこから人気度を徐々に上向きにしている。

キーワード30の中の首席<ABテスト>。
一番の優等生は<ABテスト>だろう。2011年のスコアから、2019年まで上昇を続けている。もともとは2つを比較して優劣をつける検証方法の総称だったものが、インターネットマーケティングと組み合わせることで進化している。
2011年当時で、安定期に入ろうとしていたキーワードかもしれないが、私は新しい意味を見つけ、第二世代に進化できたキーワードと考え、今回の30個のキーワードの中の首席としたい。

30個のキーワードの中で、成熟へと進んだと考えられるものが5つ残った。流行りのキーワードは、おそらく<10~20%>が生き残る世界なのだろう。

最後に

今回、2011年の「次世代」を振り返り、当時話題だったキーワードたちの多くが苦しんでいることがわかった。とはいえ、私はトレンドダウンしているキーワードの多くをまだまだ使っている。なるほど、それで伝えていることが時代遅れに感じられるのか~、と実感もできた。使う言葉は、常に新しい流行語を取り入れたり、成熟したキーワードをブラッシュアップしたり、アップデートしていかなければならないのだろう。

私もキーワードも「次世代」に進化し続けなければならない。


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