見出し画像

Inflight movie critic 映画「ほつれる」

新年初フライトで、なんともいい映画を観てしまった。

金曜日思ったより暖かかった都内をうろうろ移動して働いて、夜は新橋で知り合いと飲んで、駅のロッカーにいれていたスーツケースとりだして羽田へ。なんと、ANA国際便がT2に移動していて、酔った頭が混乱するもどうにか深夜便に乗る。寝付けず観たのがこの邦画。

よかった。

5ピーナツ評価で5。
ピーナツの数は僕が勝手に機内で見た映画を評価してつけている満点が5。

あらすじは上のリンクにあるように、「夫・文則との関係がすっかり冷え切っている綿子は、友人の紹介で知りあった男性・木村と頻繁に会うようになる。ある日、綿子と木村の関係を揺るがす決定的な出来事が起こり、日常の歯車は徐々に狂い出していく」。

ネタバレだが、もう少し加えると、主人公の女性が不倫中の男性と会って別れた直後に急ブレーキの音がして、振り向くとその男性が交通事故死するというのが出来事。ひどい話。徐々に狂いだすというよりも、すでに主人公の関係性は、今の結婚がもともと不倫から始まっていて、その旦那は前妻との間の子供の面倒みるうちに前妻とよりを戻したという不倫疑惑があったりする、こんがらがった関係。それが、その不倫相手の事故死の出来事を経て、さらに息苦しい展開を見せていく。

演出なのか俳優の演技の旨さなのか、俳優のオーラを感じさせない、普通の人の生活の会話をドキュメンタリーみたいに拾った感じがとてもよかった。へんなリアリティがある。死んだ男性の親父の独白なんて、どこにでもいそうな普通のおやじがほんとに淡々と自分のことを語っているみたいだった。

主要人物は、みんな、それなりに裕福でアーバンな感じで、相手に対してもうわべはとても優しいが、じつはかなりぎすぎすしている。旦那なんて、大企業勤務という設定なんだろうけど、とても優しいそうな口調で正論を説くのだが、相手を追い詰める、いやな有能な弁護士のようなやつで、マザコンだしなんとも嫌な奴を男優は怪演している。聞いててとても腹が立つしゃべり方のやつだった。

妻役の主人公も、いい人ではない。不倫がばれるのが怖くて、事故現場をそっと去る。自分を大事にしてくれた人の死を目の当たりにしたのに、隠れても涙するということがない。呆然としても、あくまでも普通を装って、葬式にもいかなかった。

それでも、どうにかこれまで編み上げてきた人間関係が、この死をきっかけに、どんどんほつれていって新しい局面へと展開していく。そしてエンディングをむかえる。

とても息苦しい、観ていて、いやな気持がつのっていく展開だった。なので、映画でぱーっと爽快な気分になりたいときは全然お勧めでない。そういう時はマーベルのヒーローものとかド派手アクション映画がいい。でも我慢して最後までみるべき映画。

この映画は、なんか、ヨーロッパの田舎の地方都市のかろうじて残っている名画座みたいなところでひっそり上映されて、それをみたフランス人とかドイツ人が、あ、この感情をおさえた会話、おもしろい、アメリカ人みたいに感情をぶちまけあうんじゃなくて、ぼそぼそと相手を非難して、「あ、べつにいいから、気にしないで」とかいいながら相手を糾弾している、この日本人の関係性おもしろい、なんて思ってもらう芸術作品と言った感じかな。フィンランドだったかのアキ・カウリスマキとか、アンチ・ドラマチックな感じ。

でも、息苦しい嫌な展開にも、絶対に最後には「救い」があるんじゃね?と深夜がまんして観続けたら、最後は、アンチ・ドラマチックなるも、ほつれた糸は断ち切って前に進むというようなドラマ展開で締めくくってくれました。ありがとうございました。深夜、救われました。それまで、挿入音楽もなくぼそぼそ喋る息苦しい展開だった映画が、最後は、ピアノのばらばらな和音の曲で主人公が運転する車がゆっくり去っていくシーンで終わる。余韻。

変だけどなぜかなるほどと思った挿話としては、もともと不倫ではじまった関係が夫婦へと移行したら、不倫時代が懐かしくなったりして、また別の不倫で昔と同じような場所でデートしたりする話とか(不倫フェチなのか)、怪我した犬を見殺しにしたことが結局一生父子の関係性を修復不能にしてしまったという息子の死の伏線となるようなエピソードとか、なんだか深い。たった1回の過ちが一生の関係性になる。いろいろ考えさせられた。

そういえば、こういう息詰まる話を読んでて、最後は救われたなあと思ったときに思い出したのが、最近読んだこのNoteの短編の小説。

こちらは、事件がある意味シンプルで不倫の心中で生き残ってしまった女性のその後ということだったが、映画のように事件で編みあがったものがほつれる過程といっしょで、心中事件の後に離婚があったり、ちょっとしたことに救われて、自分の中から新たな出発へという気持ちが生まれていくというような話で、よかったですよ。やはり、どん底へ突き落されて、そこから再生していく話はいいな。

こちら: 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?