Game-like drillとは

[はじめに]

私が大学院生の時のARミーティングで先生から「Game-liker drillになっているような気がする。ゲームのようでゲームではない。一見ゲームの様に見えるがドリルの様にパターン化されている様な気がする」とアドバイスを受けた事があります。

そのアドバイスを頂いた時には、先生がおっしゃっていることがわかるようでわからない、という”モヤモヤ”が残りました。今回の投稿では、”Game-like drill"になる原因とその対処法について紹介していきます。私もまだ勉強中のため、適切でない表現を使用していたり、間違って解釈している可能性があります。ご了承ください。

[ゲームは複雑系]

複雑系とはさまざまな要素が相互作用し、成り立っている一つのシステムのことを言います。ラグビーのゲームも複雑系と捉える事ができ、ゲームでは2つのチームが相互作用し、さまざまな現象が引き起こされます。ゲームを構成しているチームという要素も複雑系であり、そのチームを構成する要素である人間も複雑系として捉える事ができます。複雑系同士が相互作用するゲームではどの様な状況が引き起こされ、誰が得点を取るかなどを予測することは難しくなります。

しかし、全く予想ができない現象が起きるのか?と言われるとそうではありません。なぜなら、ゲームにはルールという要素が存在するので、全く予測ができない現象が出現することはありません。ラグビーではボールを前に投げる事がルールによって制限されているため、そのようなプレーがラグビーのゲームでは見る事ができません。

ルールという制約があるゲームの中で、チーム内で味方同士、また、チーム同士(対戦相手と自分たちのチーム)が相互作用し、お互いに影響を及ぼし合って、得点を取ったり、とられたりします。前述した通り、ゲームにはルールがあるため、出現する現象には一定のパターンがあります。

しかし、そのパターンはいつ起こるか予測することはできません。ある現象が発生するには過程があるため、さまざまな要素(人、チーム、レフリー、天候など)の相互作用の結果によって引き起こされます。そのため、要素感の相互作用なしになる現象が引き起こされることはありません。

以上のように、ゲームとはどの様な現象が起きるのか予測することはできませんが、ルールがあるため、その競技特有の現象が発生するという特徴があります。競技特有の状況とは、ゲームのルールによって引き起こされたり、要素同士の相互作用によって出現します。

これらのことを踏まえて、GBAプログラムを作成する事ができないと、ゲームがドリル化してしまう恐れがあります。ゲームに必要な知識やスキルを獲得していくためには、課題となる状況をゲームと同じ様なプロセスで発生させる事が重要です。

[Game-like drillとは]

ゲームの中で引き起こされる”ある現象”とは”ある過程”を経て発生します。その過程を無視し、練習したい状況のみを無理やり引き起こしたものを”Game-like drill”と言います(勝手に名前をつけました)。また、Game-like drillとは、ドリル練習のようにゲームを切り取って状況を再現しているため、本物のゲームとは異なる情報を選手たちが得ている可能性が考えられます。

少々状況は異なりますが、クリケットの研究で、ボウリングマシーン(野球のバッティングマシーンの様なもの)と本物のボウラーが与える情報を比較した研究があります。クリケットで本物のボウラー相手とプロジェクター付きのボウリングマシーンを相手にしたバッティングは異なる可能性がある事が明らかになっています。バッティングが異なる原因としては、ボールが投げられ、飛んできて打つまでに与えられる情報が異なるという事です。ボウリングマシーンからボールを投げられた打者は、ボールが飛んでくるという情報しか利用する事ができません。本物のボウラーが投げた場合は、その前段階の予備動作も情報として利用している事が明らかになっています(Pinder et al., 2011)。

投げられたボールを打つというスキル(動作)でも、機械を使うのと本物のボウラーが投げるのでは、得られる情報が異なるという事がわかります。そのため、ゲームで使える知識や技術を身につけるためには、実際のゲームと近い状況を過程から再現することが重要だと理解する事ができます。

ゲームに近い状況を引き起こすためには、課題となる現象がどの様な要因(要素)によって引き起こされるのかを理解する必要があると思います。その要因(要素)を理解することができれば、課題となる現象もプロセスから発生させる事ができ、効果的な修正されたゲームを作成する事ができます。

しかし、注意しておきたいことが、修正されたゲームでも同じプログラムを繰り返し使うとGame-like drillになってしまうことはあります。なぜなら、修正されたゲームは通常ののゲームにルールをプラス(もしくはマイナス)して、出現するスキルや状況の比率をコントロールします。

そのため、何度かプレーしていくと過去の経験から引き起こされる状況を予測する事ができる様になってしまいます。本来ゲームとは、不確定な要素が多いので、未来を予測する事が難しく、そして、常に変化があり、面白く、飽きません。選手たちが飽きずにゲームに取り組める様にするためにも、目的は同じで、プロセスが異なるようにバリエーションを多く持つのはとても重要な事だと思います。選手たちを飽きさせず、そして柔軟なスキルを獲得できる様にするためにも、変化を取り入れた練習を行う事が重要だと思います。

[脱Game-like drill]

練習にバリエーションを持たせるために、変動性を取り入れるという方法があります。変動性はノイズと表現される事があり、

加藤は「ノイズには、ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズがあります。ホワイトノイズとは、最も変動性が激しいノイズであり、最も安定性が低いノイズです。ピンクノイズとは、変動的すぎず、また安定的すぎないいう、変動性と安定性がバランスの取れたノイズです。ブラウンノイズとは、最も安定性が高いノイズで、最も変動性が低いノイズです。また、これらの3種類のノイズの中で能力が卓越した人がパフォーマンス中に発揮する波形は変動性と安定性が最適なバランスにあるピンクノイズである」(P.224,225)

と言及しています。ホワイトノイズやブラウンノイズだと、変化が激しすぎたり、変化がなさすぎたりするので、変化と安定が適切なピンクノイズが能力を発達させるには効果的であると言われています。また、ピンクノイズという言葉は少しわかりにくいので、別の表現をすると、程よく失敗し、程よく成功するように変化を加えた練習プログラムを組むという事です。練習にノイズを取り入れるとはどの様なことかというと、コートと人数の比率、縦横の比率や道具に変更を加えるということです。

ルールは同じでも、コートの縦横の比率、人数や道具の変更を行うことでゲームに変化を加える事ができます。毎回、同じコートのサイズで練習する必要もありません。縦が長く横幅が狭いコートでゲームし、次は横が広く、縦が狭いコートで練習することで、出現する動作やスキルにも変化を加える事ができます。このように変動性を取り入れることで、ゲームがドリル化することを防ぐ事ができ、選手たちは常に環境に適応する事が求められます。そのような変動性が加えられた環境で選手たちが適応しようとしていくことで、新たなコーディネーションのパターンを獲得する事ができたり、どの様な状況の中でもスキルを発揮する事ができるスキルの柔軟性の獲得につながります。

[おわりに]

ようやく、Game-like drillとは何か、また、Game-like drillにならないためには、どの様なことに気をつけなければならないのかを理解する事ができました。コーチや教師という立場は、その場で子供たちに理解させることも大切だとは思いますが、”モヤモヤ”を残すというのも、自分の経験を通じて感じました。


[参考・引用文献]

・加藤洋平 成人発達理論による能力の成長ダイナミックスキル理論の実践的活用方法

・Wolfgang I. Schollohorn, Patrick Hegen, Keith Davids.(2012)The Nonlinear Nature of Learning- A Differential Learning Approach

・Ross A. Pinder, Keith Davids, Ian Renshaw and Duatre Araujo.(2011). Representative Learing Design and Functionality of Research and Practice in Sport

・Keith Davids, Duarte Araujo, Robert Hristovski, Pedro Passos and Jia Yi Chow.(2012). Ecological dynamics and motor learning design in sport

・Serafina Agnello 第1.0版(209年5月13日;英語版)日本語訳版:2019年10月29日 複雑性早わかり

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