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ケーブル渡る少女

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短編小説『ケーブル渡る少女』シリーズのまとめ。 未完。
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空を飛べない私たちは02(≒ケーブル渡る少女)

空を飛べない私たちは02(≒ケーブル渡る少女)

「どうして殺しちゃいけないんだと思う?」
「え、なにそれ。もしかしてまた通り魔の話?」
「ネット見てるとさ、みんな『死刑にしろ』とか言って。」
「ふーん、そうなんだ。でもそれぐらいでもいいんじゃない?」
「死刑?」
「うん。だって…何人だっけ、…」
「8人。一人で。」
「そうそう、8人だよ? 死刑でもいいじゃん。」
「でもさ、何で誰かを殺しちゃいけないのに、犯人を殺すのはアリなの?」
「えーーだっ

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ケーブル渡る少女/(-5)の先から

ケーブル渡る少女/(-5)の先から

「空の青い時、赤い時。オレンジの時、…あと、黄色い時。」

トモコは黒板を消す手を止めた。ふわふわとチョークの粉が舞うので少しだけ顔を背けて、ついでにサチコを振り返った。

「そういう時、空ってどういう気分なのか考えたこと、ある?」
「…冷めてる、怒ってる、喜んでる、……」

サチコも窓から目を逸らすついでに、トモコを見た。

「あはは、やっぱ黄色、難しいよね。」
「……」

黄色の感情が思いつか

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ケーブル渡る少女/サチコの回想

ケーブル渡る少女/サチコの回想

 お父さんは高所恐怖症だから、せっかく素質があったのにやらなかったんだって。おじいちゃんはそれでちょっと落ち込んでたみたいなんだけど、私が生まれてからは「孫に電線を渡らせよう!」ってめちゃくちゃに張り切っちゃったみたい。お父さんはすごく反対したけど、お母さんはそういうの面白がるタイプだから、大賛成。私はその時まだ3歳とかで全然記憶はないけど、やっぱり喜んでたらしいよ(笑)

 毎日家の前の電線で特

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ケーブル渡る少女(-5)

ケーブル渡る少女(-5)

 入学式の朝。生温い空気と着慣れない制服。憧れていたブレザーが自分に似合っているかどうか、トモコは心配だった。両親は「可愛いよ」と言ってくれた。とはいえ今の父親はトモコがどんなによれよれのTシャツを着ようと、「可愛いよ」と判を押したように答えるので、あまり信用はできない。
 母は入学式に来たがったが、トモコは気が進まなかった。しかし頭から拒否してしまうのも躊躇われて、ぎこちなく笑うと、母は嬉しそう

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空を飛べない私たちは(≒ケーブル渡る少女)/アキコの独言

空を飛べない私たちは(≒ケーブル渡る少女)/アキコの独言

でもね、トモコとサチコは、去年までは普通に仲良かったんだよ。
だって中学も一緒だし。
私よりトモコの方がサチコのこと、ちゃんと知ってたと思う。
サチコだって、あの頃は私よりトモコと喋ってたよ。
中学の時はクラスが違ったからあんまりお互いのこと気にしたことなかった、って言ってたけど。

サチコが電線渡って学校来るようになってからかなぁ。
トモコがちょっと変わったの。元からなんかクールなとこあるけど、

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空を飛べない私たちは(≒ケーブル渡る少女)

空を飛べない私たちは(≒ケーブル渡る少女)

「ブラックコーヒーか、カフェオレ。」
「どっちが出ても怒らないでよ?」
「怒らないよ。」
「よーし、せーのっ!」

ガチャン。アキコが両手で押したボタンで、
ペットボトル入りのカフェオレが排出された。

「どう?」
「ブラックが良かったけどね。」
「あーまたそういう!」

アキコから受け取ったカフェオレを一口飲んで、
トモコはすぐに眉をひそめた。
それからすぐにキャップを閉めて、アキコに突き返す。

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ケーブル渡る少女(-1)

ケーブル渡る少女(-1)

「だってね、私、空を飛びたいわけじゃないんだ。」

サチコは食べ終わった弁当箱を慌ただしく片付けながら言った。
まだ中身の半分も終わらないエリコは、自分も急がないとサチコに
置いていかれてしまう気がして、できるだけ箸の動きを早くした。
苦手なプチトマトの周りを避けながら。
しかしサチコがそのまま何処かへ行くことはなく、食べ始めた時と同じ、
エリコのすぐ横の椅子から離れはしなかった。

「地面が見え

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ケーブル渡る少女

ケーブル渡る少女

サチコが遅刻するなんてめずらしいね、とトモコが言う。
彼女はいつでも電信柱の細いケーブルの上を歩いて登校するから、
バスや電車が遅れたりしても関係ないのだ。

『寝坊したの?』

アキコがメールを送ると、すぐに返事が返ってくる。

『疲れちゃった。』
『風邪?』
『そうかも。』

「なんか疲れたんだって。」
「あぁ、前に言ってたよ。電柱の間歩くのは凄く集中力がいるって。」
「ふぅん。得意なのかと思

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