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5. 先行文献研究:位置情報ゲームコンテンツによる地域活性化 京都・大阪・和歌山の事例から(渡辺武尊、猿渡隆文、中道武司、菊池大輔、2013年)|内田悠貴

<先行研究内容>
(1)緒言
 位置情報ゲームの草分けと言えるコロプラ(コロニーな生活プラス)などで利用される位置情報と地域のリアル店舗での連携企画は地域で新たな観光需要を喚起している。
 このような事例はまだ数が少ないが、各地域にはさらに多くの需要があると思われる。しかしコロプラなどの大手のゲームと連携するだけでなく、予算や需要に合わせた位置情報コンテンツも求められているのではなかろうか。そこで、本先行研究では位置情報ゲームを各地域ごとにカスタマイズし、地域のイベントなどで利用しやすいようにしたプログラムの開発と、実際に運用を行うことにした。
(2)位置情報コンテンツと地域活性化を巡る状況
 昨今の歴史ブームにより、改めて地域に注目が集まっている。この歴史ブームの特徴は20歳代〜30歳代という若年層が流行の担い手であることが特筆される。この世代の歴史への関心の契機は歴史ゲームやアニメであることが多く、情報機器の操作に長けている。これはそれまでの歴史好きの中心であった中高年とは大きく異なる。それまで地域の歴史コンテンツは中高年層をターゲットにしていたため、若年層へのマーケティングはなされていない場合が多い。
 その中で、位置情報コンテンツはチェックインを記録することを主体とした、いわばスタンプ的な要素が強い。しかし、それをゲームにすることで継続性が生まれ、ゲームからリアルな旅行や、旅行先での購買行動につながっている。
 その代表であるコロプラは各地域を巡って位置情報によるスタンプを集め、地域のバーチャルなお土産を集めるゲームになっている。お土産はバーチャルに留まらず、リアルな店舗で、ゲームユーザーへの限定土産などを販売するなどの連携企画もある。これによって地域でも無名であった店舗が急激に集客した事例もある。
(3)企画プロセス
 研究室にあたるデジタルハリウッド大学院ラボでは学生の関心が地域情報コンテンツに集約していたこと、また学生の居住地域が和歌山や大阪南部に集中していたことから、和歌山と大阪南部を扱う地域コンテンツを作成することになった。
 利用するコンテンツとして考えたのは以下の3つである。
  ・GPSによる位置取得
  ・位置情報に基づいたコンテンツ表示
  ・AR技術の利用
またコンテンツとしては以下の4つを考えた。
 ・地域ゆかりの歴史人物
 ・歴史人物を利用したクイズとゲーム
 ・ゆるキャラ・戦隊物と連携
 ・ARを利用した歴史人物などの表示
(4)運用の方向性
4.1京都での運用
 京都では2月3日に節分行事として「節分おばけ」がある。仮装をして四方の神社詣りをし、鬼を追い払い厄落としをするというヴェネチアなどヨーロッパのカーニバルとハロウィンを足したようなイベントである。長らく廃れていたが2002年より復活させる取り組みを筆者や京都の旅館組合などを含めた何人かで行ってきた。ここでは参加者に仮装で周辺の観光スポットを歩いてもらい、その地域ゆかりの人物を知ってもらうことで地域の魅力再発見という方向に誘導することにした。
4.2和歌山での運用
 本来このコンテンツ全体は、和歌山のコンテンツとして企画したのだが、2月3日の節分が時期的に先になってしまったため、京都節分の事例を元に再カスタマイズを行い実装する予定である。
(5)コンテンツ概要
 コンテンツは、スマートフォンでGPS機能により位置情報を取得し、位置情報を元にゆかりの人物が登場し、そのゆかりの人物によるゲームが展開される。ゲームはゆかりの人物が敵役と味方役に分かれ、敵役を封印するということでクリアできる簡単なゲームである。ゲームのヒントとして、地域ゆかりのクイズなどが出題され、人物ゆかりのアイテムで敵役を封印していく。またヒントをAR技術により表示することも想定している。
5.1京都でのコンテンツ
 節分おばけ行事を行っている団体の開催地域に合わせて企画したため、5つの地域コンテンツからなるものとなっている。
① 三条地域
三条商店街中心の京都精華大学真下研究室の開催地域。味方役は明智光秀、敵役は織田信長である。本能寺跡に近いことなどから明智光秀が味方役となった。
② 東山地域
味方役には広く知られる人物を、敵役には鬼に関わる人物を挙げた。味方役は坂本龍馬、敵役は小野篁である。
③ 宮津天橋立地域
酒呑童子で知られる大江山の鬼伝説に近いことから、味方役は源頼光、敵役は大江山の鬼である。
④ 鞍馬貴船地域
叡山電車でのおばけ電車企画があるため用意した。味方役は牛若丸、敵役は鞍馬のカラス天狗である。
⑤ 島原地域
味方役は安倍晴明、敵役は鬼である。節分行事が鬼を追い払うことが基本のため、敵役には鬼を類推できるようなキャラクターを用いている。
 具体的な利用方法は、節分おばけ参加者が仮装で各地域を巡るが、その行く先々でGPSによる位置取得により、その地域の謎を解く形で進められる。
 その地域や人物に因んだクイズを解くことで、アイテムを出現させ、そのアイテムを適切な位置に実装することで、敵を封印することができる。封印することでクリアできるのだが、封印までの所要時間の短さを競うゲームになっている。
 このランキングを発表し、上位の者にイベントの商品を贈呈するなどを行うことで、ゲームへの参加者を増やすことが出来るとしていて、今回は地域対抗もでき、地域ごとの特典を競うこともできるようになっている。
(6)HTML5によるコンテンツ制作について
 ネイティブアプリを作成するより半分のコストで実現が可能であると同時に、アプリの審査などの過程を省略することができる。
(7)和歌山の事例と今後の展望
 全国各地にはひこにゃんやくまモンのような所謂ゆるキャラが多く作られているが、人気が出るキャラクターの一方で、あまり活用されずに消えていくキャラクターもいる。
 このシステムを用いて、各地の埋もれたゆるキャラなどを掘り起こして、活用できればと考えている。和歌山には、空海や真田幸村など歴史上の人物や和歌山に関わる人物が多い。その中にはゆるキャラになっている人物もいる。
 その1つに、文武天皇の后になった藤原宮子が和歌山県御坊の海女の出身であったという宮子姫伝説に基づいて作られたゆるキャラ「みやこひめ」がある。本先行研究は、今後はこのみやこひめを中心に和歌山のゆるキャラを取り上げたカスタマイズを行い、実証実験を行っていく予定である。
 また将来的な展望になるが、AR技術(Augmented Reality 拡張現実と訳される)を利用し、ゆるキャラをその地域でスマホカメラから出現させる試みを行いたい。しかしAR技術はまだまだコストがかかるシステムであり、これをどう解決していくかが課題となっている。
(8)結語
 このようにGPS機能による位置情報ゲームコンテンツを地域イベントで利用した事例の紹介を行ってきた。これを各地域でキャラクターを入れ替えるだけで使えるシステムとして提供するという。これは地域の行事などでこのコンテンツを利用することによって地域の再発見につながり、観光など地域活性化につながることを目指すコンテンツである。
 以上の、京都節分おばけ祭や和歌山でのイベント導入事例から、低予算で導入できるモバイルによる地域活性化コンテンツとして利用されることを期待している。


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