見出し画像

13. 先行文献研究:位置情報ゲーム「Ingress」を用いた観光振興の可能性の研究―横須賀市を事例として―(山田浩義・志摩憲寿、2016年)|内田悠貴

<先行研究内容>
1. 研究の背景・目的・方法
 位置情報ゲーム「Ingress」にはミッションと呼ばれるスタンプラリーのようなものがあり、プレイヤーは決められた地点を巡り、報酬としてゲーム内でメダルを入手できる。それにより、プレイヤーが新たな地域資源を発見する可能性を持っている。また、ミッションはプレイヤーが作成することができるとしている。
 従来の位置情報を用いた観光振興に関する研究を見ると、行政によるシステム開発や行政によるアクションという地域振興の方法・取り組みに着目した研究はあるが、位置情報を用いた観光振興における観光者のアクションに着目した研究、特に本先行研究で取り上げられるIngressを扱ったものは必ずしも十分ではないという。
 ‎この問題意識の下、横須賀市へのインタビュー調査や関連資料を中心として同市でのIngressを用いた取り組みの整理、横須賀市によって作成されたミッションの達成者数と空間的広がりを分析している。

2. 横須賀市におけるIngressを活用した観光振興の取り組み
 横須賀市における代表的な観光振興には、ヴェルニー、ペリー、東郷平八郎など歴史上の人物に由緒のある場所を巡る観光ルートに加え、近年では、横須賀市を舞台としたアニメ「たまゆら」や「蒼き鋼のアルペジオ―アルス・ノヴァ―Cadenza」とのコラボレーションを図り、これらの舞台となった場所を巡る「聖地巡礼」のコンテンツマップの作成やスタンプラリーの実施、カレーとのコラボグルメがされてきたという。
 横須賀市におけるIngressを活用した観光振興の取り組みには、こうしたサブカルチャー活用の流れもあった。直接的な契機は、市観光企画課の職員が2014年7月からIngressを始め、職員らがプレイする中で、横須賀に来るプレイヤーを集客に利用できるのではないかという機運が高まった。2014年12月にIngressを活用した集客事業の開始が発表され、特設サイトがオープンすると、2015年2月から11月にかけて、偉人ミッションキャンペーンなどが立て続けに行われ、10月31日には最大規模の公式イベント「ミッションデイ横須賀」が開催。さらにIngressを用いた観光振興を行っている岩手県とのコラボレーションなど幅広く施策が展開された。
こうした取り組みの背景には、「Ingressを通じて横須賀を色々な角度から知ってもらい、次回はIngressだけでなく家族やカップルと再訪していただけるように取り組みをしていきたい」という狙いがあると述べている。

3. 横須賀市作成Ingressミッションの達成者数とその空間的広がり
3.1 ミッションの達成者数
 全17ある横須賀市公式ミッション(YKSK)達成者数をみると、10月7日から12月2日にかけて最も多かったものは三笠公園を巡るミッション(839人)、次いでドブ板通りを巡るミッションが多かった(829人)、猿島を巡るミッション468人であった。また、岩手県と横須賀市を結ぶミッションの達成者数は69人であった。ミッションデイ横須賀の際には、2000人の参加者が見られ、三笠公園・ヴェルニー公園・うみかぜ公園・若松マーケットのそれぞれを巡る個々のミッション4つにおいて1200人を越える達成者数であった(2015年11月4日時点)。

3.2 ミッションの空間的広がり
 横須賀市中央地区における市公式ミッションとIngressプレイヤー作成ミッションそれぞれの開始点とポータル、ルートを見ると、横須賀市公式ミッションは横須賀中央駅周辺、三笠公園、猿島、ドブ板通り、ヴェルニー公園を中心に市内の代表的な観光地を巡るミッションが中心となっていることがわかると述べられている。
 一方、プレイヤー作成ミッションは2015年12月2日までに86のミッションが作成された。空間的広がりとして、プレイヤー作成のミッションの方が、横須賀中央駅南部や沿岸武を中心に市の公式ミッションではカバーしきれなかった地域まで展開されていることが明らかになったとしている。

4. まとめ
 これらの動向から、行政の立場として横須賀市が推薦したい地区のミッションを作成することによってプレイヤーはその地域へ来訪していたが、プレイヤー作成ミッションは市が作成したものとは異なっていた。地域の魅力を提案することができるのはIngressプレイヤー=観光者であることから、Ingress を通じた地域資源発掘の可能性の高さに観光振興としての将来性を期待できるのではないかと考えられるだろう、と本先行研究は結んでいる。

<論文を受けて>
 横須賀市が作成した市公式ミッションとプレイヤーが作成したミッションの空間的広がりは、プレイヤーが作成したミッションは市の公式ミッションではカバーしきれなかった地域までの展開があった。2017年現在となっては、自治体の公式ミッションは少なく、ミッションデイのイベントに際して作成されたミッションが最もその地域における推薦したい地域・名所であることが窺える。よって、他の地域では、ミッションデイのイベントのミッションとそれまでIngressプレイヤーによってその地域で作成されたミッションとの空間的広がりを比較することになるであろう。

前の項目 ― 12. 先行文献研究:観光ネクストステージ スマホのゲームIngress(イングレス)を観光に活かす 岩手県庁Ingress活用研究会の活動から(保和衛、2015年)

目次

次の項目 ― 14. 先行文献研究:スマホアプリ活用による地域活性化 INGRESSを活用した観光振興・地域振興の可能性(千野正章・高橋謙洋・渡辺和樹、2015年)

読んだ後は投げ銭のほどよろしくお願いします。日々の活力になります。Amazon欲しい物リストもよろしく:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls/9FWMM626RKNI