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第6章 結論|内田悠貴

1. インタビューを受けての結論
 インタビューを通して、Ingressを観光振興に導入した理由として、最も大きな要因かつ共通していたものは、導入以前から職員自身がIngressをプレイしているということが明らかになった。
 そして、Ingressを用いた観光振興の取り組みを表明しながらも、積極的に取り組みを進めている横須賀市と現在は取り組みを止めている中野区へのインタビューを通じて、取り組みに対して自治体間に差が出た要因は、マネタイズ面(お金を支払う側面)の表面化と都市の性格であると明らかになった。
 日本国内において2015年12月開催のIngressの公式イベントから無料チケットと共に有料チケットの販売が開始し*1、加えて、アプリ内課金の開始*2や広告収入モデルの確立*3といったマネタイズの側面が表出してきた。そうした流れを受けて、中野区は取り組みを止めている一方、横須賀市は取り組みを続けていることから、自治体での姿勢の違いが表れたと言える。また、住宅都市のような構造で、商業地のすぐ隣に住宅街が広がる中野区に、スマートフォンを持ったプレイヤーが多く訪れることによる住環境や地域の安全にマイナスの影響を及ぼす可能性の懸念が生じたことも、横須賀市と中野区の双方の間に差が生じている要因である。
 横須賀市と中野区へのインタビューを受けて、Ingressを用いた観光振興の取り組みにおいて求められる要素を以下のモデル図に示した。モデル図は⑨を頂点とする①から⑧の要素でピラミッド状に構成される。

図1 Ingressを用いた自治体での観光振興の要素モデル図 (出典:筆者作成)

 まず1番目に、自治体職員がIngressをプレイしていることである。これは横須賀市と中野区で共に共通していることである。
 2番目は自治体の重要産業が観光であることである。何が何でも、あるいはどうしても地域の外から人に来てほしいということではない限り、あるいは都市の性格上、商業地のすぐ隣に住宅街が広がる地域にスマートフォンを持った多くのプレイヤーが訪れることで住環境や地域の安全にマイナスの影響が懸念される場合などにおいては、Ingressを観光振興に導入する必要はないだろう。
 3番目に公平性に対する自治体の姿勢である。2017年12月現在、Ingressでは公式イベントでの有料チケットの販売に加えて、アプリ内課金の導入、広告収入モデルの確立によるマネタイズ面(お金を支払う側面)が表面化している。これを受けて、横須賀市は、課金しなければレベルが上がらない、課金した人が強い、というような趣旨のマネタイズ面(お金を支払う側面)なら再検討があったかと思うが、チケット販売は個人のコレクター心を満たすだけのものであったため、という理由で取り組み当初からの姿勢を変えていない。一方で中野区は、マネタイズ面の表面化が一因となってIngressに関する取り組みを2017年11月現在は行っていない。このように、公平性に対する姿勢は自治体によって異なるため、導入に際して確認する必要があるだろう。
 4番目に観光スポットが適度に散らばっていることである。観光という点から、街の各地を巡ってもらうことは必要であるのは中野区へのインタビューの通りである。
 5番目に予算が無くても様々な可能性を探すことである。予算がないからといって諦めてしまうのではなく、様々な可能性を探すのは横須賀市へのインタビューの通りである。
 6番目に自治体とプレイヤーコミュニティの積極的なコミュニケーション、7番目に自治体より地域のプレイヤーが主体となることである。各種イベントやキャンペーンを開く上で、参加者となるIngressプレイヤーの存在は欠かせず、アイディアを得るためにもプレイヤーおよびプレイヤーコミュニティとのコミュニケーションは重要である。
 8番目に著名な方や地元の有力者、メディア、企業などを巻き込んで企画することである。ここで大事なのは「お願いする姿勢」ではなく、「巻き込んでいく姿勢」である。
 そうして、このモデル図の頂点かつ9番目にある、Ingressを用いた観光振興につながっていく。以上が、インタビューを受けて、Ingressを用いた自治体の観光振興の取り組みに求められる9個の要素である。

2. 今後の課題
 Ingressを用いた観光振興の取り組みにおいて横須賀市に並び代表的な自治体である岩手県にインタビューを行うことができなかった。
 更なる研究として、自治体の産業別売り上げおよび収入金額において観光産業が占める割合の水準などの基準を設定した上で、このモデル図に基づいて、どの地方自治体がIngressを用いた観光振興の取り組みを行うのに当てはまるのか、岩手県にこのモデル図を当てはめるとどの要素を満たすのか、という観点から研究を行ってみたい。
 加えて、海外でもIngressのリアルイベントは開催されているが、横須賀市のようなIngressを用いた観光振興の継続的な取り組みの事例にも視野を広げていきたい。

謝辞
 本論文にあたり、横須賀市経済部観光企画課の古崎絵里子氏、中野区都市政策推進室の横溝友樹氏には大変お世話になりました。ここに改めて謝意を表します。

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*1 Ingress速報(2015年10月7日)『Abaddonサポーターキットの内容・値段・注意点』、http://ingressblog.jp/abaddon-supporter-kit/, 2017年12月12日参照。
*2 Ingress速報(2015年10月29日)『Ingressに「ストア」誕生、そこで手に入る3つのアイテム』、http://ingressblog.jp/store-front/, 2017年12月13日参照。
*3 本論文の第2章の図12を参照。
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