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4. 先行文献研究:観光周遊支援ゲームのこれから(倉田陽平、2013年)|内田悠貴

<先行研究内容>
(1) 概要
 スマートフォンの爆発的普及に伴い、全国各地で人々の観光周遊に役立つスマートフォンゲームが登場している。本先行研究ではそれら「観光周遊支援ゲーム」の7事例を概観し、これらに対する学生の関心調査も踏まえて、ターゲティング、適切なゲームジャンル、動機付けの手法、位置判定技術、コンテンツ制作の協働化、存在感の演出、ゲーム観光後の行動誘発、観光地のデータ取得など、今後の観光周遊支援ゲームの企画・設計において考慮すべき要素について議論する。
(2) はじめに
 スタンプラリーからご当地ゲームアプリに至るまで、「実際にある場所」を題材としたゲームは数多く提案されてきた。これらは以下の4つに大別できる。
① ある場所の認知向上に役立つもの。例えば、肥薩おれんじ鉄道を題材にした「おれんじ鉄道で行こう」や有田市公認のみかん農場経営ゲーム「AR-ARIDA」が挙げられる。
② ある場所への人々の誘客に役立つもの。例えば、位置ゲーの代表格である「コロニーな生活」では、ゲーム内のアイテムがもらえるカードを特定の店舗で発行し、誘客を図っている。
③ ある場所来訪後、その内部における周遊の役に立つことを狙うもの。観光地で行われるスタンプラリーや謎解き/宝探しゲームはこれにあたる。
④ 特に場所への寄与はなく、単純にそこをゲームの舞台・モチーフとして利用したもの。
 本先行研究は、③のうち、観光地や観光関連施設を対象としたものを観光周遊支援ゲームと呼び、焦点を当てる。観光周遊をゲーム仕立てにするメリットはいくつか考えられる。まず、観光資源に付加価値を与え、訪問価値を高めることができる。また、通常の観光より滞在時間を延長させ、より多くの消費を誘発させることができる。そして何より、通常の観光では気づかれにくい魅力的な観光資源を参加者に体験させることができて、これが上手く行けば、参加者による再訪や好意的なクチコミ発信も期待できる。
 もっとも、現実空間のあちこちにゲーム要素を配置し、管理・更新していくには、大変な手間が必要になる。そこで、ゲーム要素を仮想化すれば、そのような手間は回避できるとしていて、さらに、スマートフォンの利用により、動画や音声を活用したり、現実空間とゲーム要素の双方向性を上手く高めたりすることで、より印象深い体験を利用者に与えることができる。
(3) 観光周遊支援ゲームの事例
 観光周遊支援ゲームはスタンプラリーに始まって多種多様な事例があるが、ここでは電子端末を活用した近年の事例を7つ紹介する。
事例1:ミッション in 佐久島 アートハンター
 このゲームは、愛知県の佐久島の島内に散在する現代アート作品を「宝箱」と見立て、宝探し形式でアート作品を周遊させるものである。
事例2:京都妖怪絵巻
 このゲームは、「妖怪討伐士見習い」として、京都市内各地にいる妖怪を退治してまわるものである。退治したい妖怪を選び、ヒントを得てクイズに正解することでアイテムが与えられ、妖怪退治戦へ移る。これを繰り返して京都各地の寺社旧跡7箇所を巡ることとなる。
事例3:メネフネアドベンチャートレイル
 このゲームは、オアフ島にあるAulani, A Disney Resort&Spaで提供されているアトラクションの一つである。スマートフォンに似た電子端末を借り、画面上の指令に沿ってホテルの中庭やロビーを探索し、そこに隠された秘密を解き明かして行くというものである。
事例4:ときめき がまごおり
 このゲームは、愛知県蒲郡市を舞台に、男性キャラクターとのバーチャルデートを楽しむものである。3人のキャラクターがそれぞれグルメ、遊び・体験、パワースポットを担当。
事例5:BRICK STORY 江別まち歩きシリアスゲーム
 このゲームは、「同じ中学校の写真部に所属していた男女3人が4年ぶりに再会し、かつて写真撮影に訪れた思い出の場所を巡りながら、もう一人の仲間について記憶をたぐり寄せていく」というストーリーのもと、北海道江別市内の観光スポットを巡るノベルゲーム(小説を読み進めていくかのように進行するゲーム)である。
事例6:ジオキャッシング
 ジオキャッシングは全世界規模で楽しまれている投稿型宝探しゲームである。宝箱は公園や路上など現実世界のあちこちにゲリラ的に隠されており、その数は国内に1万6千個あまり、全世界では217万個に及ぶ(2013年8月9日現在)。来訪者に楽しんでもらおうという配慮が宝箱投稿者に働くためか、宝箱の多くは何らかの見所周辺に設置される傾向にある。
事例7:未完成ガイドブック
 網走市の旅行プランコンペディションで提案されたこのゲームアイデア(未実装)は、「海岸に打ち上げられた記憶喪失者として、記憶を取り戻すために旅をする」という設定のもと、虫食い状態のガイドブックの空欄に発見や気分を書き込んだり、写真を貼ったりしながら、記憶探しの旅をするというものである。
(4) 観光周遊支援ゲームへの関心
 本先行研究では、観光周遊支援ゲームの企画に役立つヒントを得るため、主要ターゲットと考えられる若者層を対象に、上記各ゲームに対する関心度合いを調査した。
 被験者は首都大学東京の教養科目「自然・文化ツーリズム入門」を受講した大学生124名である。

表1 学生の観光周遊支援ゲームへの関心度(5段階評価)

※ヘビーゲーマー群は、スマートフォンゲームを月に11日以上プレイする者によって構成される。
※P値は、マンホイットニーのU検定によって算出された二群の差の有意確率を示すものである。
 表1は被験者全体、および男女別・理分別・スマートフォンゲーム関与度別に関心度平均値を示したものである。学生の関心が最も高かったのはジオキャッシングで、ときめきがまごおりは多くの場合で関心度平均値が最低であるとともに、標準偏差も最大であった。このことから、ときめきがまごおりは人によって関心が二分されるゲームだとわかる。
 男女別では、女性の方が男性よりもほとんどのゲームにおいて関心を示し、うちジオキャッシング、未完成ガイドブックの2つではその差が有意となった。その他、スタンプラリー経験の有無、宝探し/謎解きゲーム参加経験の有無に応じた各ゲームへの関心度合いの違いについても調べたが、差はほぼ見られなかった。
 以上のことから、次の示唆を得た。
・ジオキャッシングやアートハンターの様に、地図を頼りに冒険するゲームは男性向けと思われたが、データを見る限り女性にも受けが良い。
・文系の学生には歴史的要素のある京都妖怪絵巻や文学的要素のあるBRICK STORYが好まれると予想していたが、実際にはあまり差がなかった。
・ゲームをしない層は未完成ガイドブックやジオキャッシングの様な、参加自由度の高いゲームに対し高い興味を示す。
・スタンプラリーなどの昔ながらの観光周遊支援ゲームへの参加経験の有無は、電子端末を使った観光周遊支援ゲームへの興味には影響を及ぼさない。
 続いて、同じデータから主成分分析を行い、二次元の主成分プロットを作成した(図表省略)。これより、第一主成分(寄与率36.4%)は一般的な関心の持たれやすさ、第二主成分(寄与率18.0%)は大人向けか否かを示す軸だと解釈でき、このような観点のもとで観光周遊支援ゲームは評価される可能性が示唆されるという。
 以上の分析から、ゲームの性格に応じて関心を引く層が異なることが明らかになった。従って、観光周遊支援ゲームを企画する際には、そこの観光地に呼び込みたいターゲットは誰かを考え、それに即した性格のゲームを考える必要性があると言えるだろう。
(5)観光周遊支援ゲームの企画・設計に際し考えるべきこと
 (4)では観光周遊支援ゲームの企画の際の「ターゲティング」の重要性が導き出され、この他にも観光周遊支援ゲームの企画・設計の際に考慮すべき事項はいくつも考えられるという。本項では過去の事例を踏まえながら、順に紹介している。
(5.1)ゲームジャンル
 任天堂のサイトでは、過去発売された幾多のゲームが「アクション、アドベンチャー、スポーツ、シミュレーション、シューティング、ロールプレイング、パズル、テーブル、音楽、レース、格闘、コミュニケーション、学習/トレーニング、実用、その他」の16ジャンルに分類されている。この中で観光周遊支援ゲームに適用できそうなジャンルはどれなのかという考察を述べる。
 地理・歴史・文化・自然などを現場で学びながら楽しむようなクイズゲームが考えられる点から、学習/トレーニングというジャンルはすぐに観光周遊に適用できそうだ。
 アドベンチャーゲームやロールプレイングゲームも、物語や冒険の進行と共に次々と舞台が移り変わるという点で、観光周遊に親和性が高そうだ。
 テーブルゲームというジャンルも、そのインドアな響きとは裏腹に、観光周遊との親和性が高そうだ。広島市の広探ゲーム、鹿児島与論町のヨロン島・リアル人生ゲーム島の様に、スゴロクや人生ゲームを実際の街で展開し、偶然性の魅力を持った観光周遊を支援している事例もある。
 また、シュミレーションゲーム中の恋愛・育成シュミレーションゲームというジャンルも観光に応用できる可能性が高い。仮想の恋人や仮想のペットとの旅行など、魅力的なキャラクターの力によって周遊を動機づける仕掛けが考えられるからである。ただし、このジャンルは、(4)で見たように、関心を持つ層が限定される恐れが否めない。
 一方、アクション・シューティング・音楽ゲーム・レースゲームの様に、素早い動作やゲーム画面への意識集中を要するゲームは、事故防止や日中の屋外の日差し、騒音を考えると、観光周遊と親和性が低い恐れがある。
(5.2)動機付けのメカニズム
 本先行研究の筆者は、ゲームという行為は参加者の自主性に基づくものであり、逆にゲームの強制はゲームをつまらないものへと変えてしまう。観光周遊支援ゲームにおいても、参加者の意識に「強制的に回らされている」という感覚が生まれれば、ゲームは途端につまらないものとなるだろう、と述べている。
 そこで、参加者に自己主導感を感じさせる工夫の1つとして、宝探し、妖怪退治、思い出の地巡りなどの「世界観・物語の提供」であり、ゲーミフィケーションで用いられるノウハウの1つであるという。
 世界観や物語の提供以外にも、ゲーミフィケーションで使われる動機付けノウハウとして次のようなものを挙げている。
・オンボーディング:人々を気楽に参加させ、やりながらルールを徐々に体得させる。
・スコアや順位の可視化:参加者に定量的な評価軸を示し、それに即した行動を促す。
・ミッションやゴールの提示:参加者に目標を与え、誘導する。
・バッジやレベル:参加者に目標達成度合いを認定して、更なる意欲向上をもたらす。
・競争:参加者の競争意識を高め、熱中させる。
・ソーシャル:参加者同士の連帯感を高め、離脱しにくくする。
・やりこみ要素:ゲームをやればやるほど楽しめる上級者向けの要素を用意する。
・逆転要素:新参者は必ずしも不利ではなく、かつ上級者も油断がならない状況を用意する。
(5.3)位置判定技術とその応用
(5.4)コンテンツの作成と拡張
(5.5)存在感の演出
 電子端末を用いた観光周遊支援ゲームはスタンプラリーとは異なり、チェックポイントなどが現実世界に露出しないため、ゲームの存在が気づかれにくい。そのため、積極的な宣伝はもちろん、チェックポイントやゲーム要素を現実世界に配置するか、ゲーム参加者の行為や成果をあえて目につくものにすることで参加者以外にゲームの存在を気づかせるように仕掛けるのも一計である。
(5.6)ゲーム観光後の行動の誘発
 面白い観光周遊支援ゲームを提供しても、クリアしたきりになるのではもったいない。ゲーム参加者にはその地域のファンになってもらい、クチコミ発信・再訪・物産購入などを促したい。そのためにもゲームを通じてその地域の魅力に気づかせることが重要であるとしている。例えば、ゲーム中にユニークな記念写真を撮らせるミッションがあれば旅行後の良い土産話のタネとなる。
 一方、ゲーム参加者に再訪行動や物産購入を促すには、ゲーム中の業績を称え、何らかの特典を付与するのも一計だろう。
(5.7)データ取得
 観光周遊支援ゲームには「観光客の周遊の役に立つ」という表の目的に加え、「利用者からデータを収集する」という裏の目的も成立しうる。しかし、利用者の行動はゲームによって影響を受けているため、一般の観光客の行動について言及することはリスクを伴う。そこで、周りの状況をレポートさせるゲーム内のミッションなどから、スマートフォンを環境センシングデバイスとみなして、利用者の行動に代わり、「利用者周囲の状況」についてデータを収集することを考える。
(6)おわりに
 以上述べてきたように、観光周遊支援ゲームの企画・支援にあたっては検討すべき事項が様々あり、またその分だけ可能性も大きく広がっていると言える。ゲーミフィケーションの醍醐味の1つは、面倒なことを楽しみへ変えられる可能性である。よって、「混雑」や「予想外の悪天候」など「観光において面倒なこと」という観点からゲームデザインを考え始めるのも良いかもしれない。

前の項目 ― 3. 先行文献研究:携帯位置情報ゲームと観光体験—ゲーミング・ツーリズムの実態と展望—(天野景太、2010年)

目次

次の項目 ― 5. 先行文献研究:位置情報ゲームコンテンツによる地域活性化 京都・大阪・和歌山の事例から(渡辺武尊、猿渡隆文、中道武司、菊池大輔、2013年)

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