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7. 先行文献研究:岩手県庁ゲームノミクス研究会中間報告書(岩手県庁ゲームノミクス研究会、2016年)|内田悠貴

【岩手県庁ゲームノミクス研究会が2016年に発表した中間報告書について、「ゲームとのコラボレーション指針の提案について」という項目を中心にまとめる。】
<先行研究内容>
1.検討の背景
 現状として、Ingressによる観光振興などの取り組みや「ゲーム×岩手県」のコラボ企画の事例が存在することからゲーム業界において岩手県が有名であるとしている。一方で、コラボの観点やノウハウの共有に課題があるとしていて、各所属のコラボの観点・進め方がある中での県としての取り扱いがバラバラにならないよう、「共通の指針」のようなものがあると良いのでは、としている。
2.検討の方向性
 具体の検討項目として、
① 自治体などのゲームとのコラボ状況の確認
② 自治体などのゲームとのコラボの目的、意義の調査
③ これまで実施してきた取り組みの確認
④ ゲームとコラボする必要性
⑤ ゲームとコラボするための売り込み
以上の5つを挙げている。
 検討①:自治体のゲームとのコラボ状況
・戦国BASARA×山梨県甲府市
・パズル&ドラゴンズ×富山県高岡市
その他、防災・生活情報など多数の自治体提供アプリがあるとしている。
 検討①:企業のゲームとのコラボ状況
・モンスターストライク×ローソン
・Ingress×ローソン
・戦国BASARA×京浜急行電鉄
ゲーム会社はゲームの認知度向上とプレイヤーの拡大、コラボ企業は集客効果と売り上げの拡大、というように双方にメリットがあるとしている。
 検討②:自治体への調査
・ゲームの活用やコラボレーション事例について調査を実施
・調査対象:43都道府県(宮城・栃木・茨城県を除く)
・調査項目
(1)事例について―①事例の有無、②事例の詳細、③取り組み体制、④きっかけ、⑤目的、⑥効果、⑦課題
(2)庁内組織(所管部局、職員の自主研究グループについて)―①庁内組織や取り組みの有無、②詳細、③目的、④効果、⑤課題、⑥今後の設置予定及び理由
・回答数 32/43(回答率74%)
・調査結果
① 事例の有無
 事例「有」が13/43(30%)と、思ったほど多くなかった(市町村の取り組みの方が活発な可能性あり)。
 Ingressの取り組みが複数県あり、「岩手県の取り組みを参考にしたい」との声もあった(岩手県のIngressの取り組みが多くのメディアに掲載された影響か?)。
② 目的
 全国共通で、ゲームの特性を活かした新規層の開拓、誘客促進、魅力発信や認知度向上が大半で、ゲーミフィケーションを活用したオープンデータの収集や利活用、中心市街地の活性化といった意見もあった。
③ きっかけ
 多くが企業からの提案で、行政が主導するケースは少なかった。
④ 効果
 新規層の開拓、誘客や販売促進、情報発信に効果的として、高評価だった。
⑤ 課題
 まずはプレイしてもらうことが必要であり、ゲームをプレイしてもらうための認知度向上が課題である。自治体の負担ありの場合は費用対効果による。
⑥ 庁内組織の設置
 庁内組織の設置は4県のみで、コラボレーションの推進とまでは言えないが、代表となる窓口を設置しているケースがあった。
・調査結果を踏まえた考察
① 多くが企業からの提案であり、積極的にゲームを活用しようとまでは至っていない。逆に、今がチャンスとも言える
② 企業は行政とのコラボに何を求めているのか?行政からメリットなどを示せれば、マッチングが増えるのではないか?
③ 新規層の開拓、誘客促進や県PRなど、自治体側の評価は高いが、企業側はどのような効果を期待しているのだろうか?
④ コラボレーションの課題はあるが、自治体側が改善すべき点はないか?
 検討②:企業への調査
・都道府県調査の結果を踏まえ、企業側へ調査を実施
・調査対象
岩手県とコラボレーションを行う(株)モバイルファクトリー取締役 宮井秀卓氏にインタビュー
・調査項目
①きっかけ、②目的、③期待した効果、実際の効果、④不安だった点、⑤自治体に改善が必要な点、⑥課題
・調査結果
① きっかけ
 行政へのオファーはハードルが高く、どこに連絡したら良いかわからない。また、代表に連絡しても、担当まで辿り着けるかわからない。
② 目的
 行政とのコラボによりゲームへの信頼性が高まり、普段ゲームをしない方々に知ってもらうきっかけになる。
 ゲームプレイヤーへの新たな価値の提供ができ、ゲームへの信頼性が高まり、他企業・他自治体が興味を持つきっかけにもなる。
③ 効果
 メディア戦略の拡張によるゲームプレイヤーの満足度向上と普段取り上げられるジャンル外へのメディアへの露出。
④ 不安
 最初のアプローチが最大の壁であるが、以降はスムーズに行える。
⑤ 自治体側の改善点
 地元のトレンド、イベントなどと掛け合わせた情報発信や、地元企業との連携、協力、他自治体への情報発信、つながりの拡大などもっと広がりを見せてほしい。
⑥ 課題
 コンテンツの充実に向けた素材の提供やゲーム内で完結せず、体験する場、流通の場の提供が求められる。
・調査結果を踏まえた考察
① 代表窓口の明示など、企業がアプローチしやすい環境づくりが効果的で、「岩手県庁ゲームノミクス研究会」、「会長・保和衛」の露出効果大
② ゲームの特性を生かしたプレイヤーへの新たな価値の提供、満足度の向上に加え、「行政」という信頼性も強みに
③ 異ジャンルのメディアへの露出は双方にとってプラスに
④ 地元のトレンド、キャラクター、イベントなどと掛け合わせ、情報発信に広がりを
【調査結果を踏まえた今後の取り組みの方向性】
・他自治体に先行して取り組むこと。行政からの仕掛けは今がチャンス。
・win-winの関係を目指すことで、互いにメリットを享受する。
・地元のトレンド、キャラクターなどを大いに活用する上で、地域資源は大きな武器である。
・メディア戦略を意識する。異ジャンルへの情報発信は効果大。
 検討③:これまで実施してきた取り組み
・(株)サイバーエージェントとのコラボ企画(2013.4〜2015.3)
【天下統一クロニクル×岩手県】
愛着のある都道府県に所属し、全国を巡りながら、個性豊かな隊士(カード)を手に入れ、他の都道府県と合戦などを行いつつ、天下統一(ランクアップ)を目指すゲーム。
・(株)モバイルファクトリーとのコラボ企画(2015.12〜)
【ステーションメモリーズ!×岩手県(三陸鉄道・IGRいわて銀河鉄道)】
GPS機能を利用して探索した最寄りの鉄道駅を仮想所有し、奪い合うゲーム。日々の行動を記録できる機能もあり、旅行記代わりにもなるもの。
 検討④:ゲームとコラボする必要性
・多くの人がスマホを持つようになった。通信環境の向上により、いつでもどこでも、ネット上の情報にアクセス可能。スマホでの情報発信は大きな拡散力を持つツールとなっており、岩手県のイメージアップ、知名度アップを行うツールとしてスマホ&ゲームを活用する。
・若者を呼び込むツールとしてのゲーム。地方創生、若者活躍支援の取組として、県内外の若者の興味を引き、若者が岩手に集い、そして活動する環境をゲームを通じて構築して、交流人口を拡大する。
・地元企業や専門学校などクリエイターの育成。ゲームを楽しむユーザーとしてだけではなく、ゲームを開発するクリエイターやプログラマーを育成し、雇用の拡大、地域おこしなどを仕組み、定住人口を拡大する。
・ゲームによる学習効果。地域の知識を深める、社会問題を学習するツールとして、ゲームを活用する。(例)SIM2030、Ingressを通じた地域の名所旧跡巡り
 検討⑤:ゲームとコラボするための売り込み
・ポイント①
行政課題の解決のために、ゲームを活用した取組をしているとを広くPRする。
▷Ingress研究会、ゲームノミクス研究会
▷既にコラボしているゲーム会社との事例紹介
・ポイント②
岩手県及びコラボ企業のメリットを明確にして話を進める。
▷県側:イメージアップ、観光地・県産品の紹介、ゆるキャラの知名度アップなど
▷コラボ企業側:岩手県とのコラボによるゲームの知名度アップ、メディア露出
・ポイント③
岩手県側の支援方法の具体的提示
▷企業誘致として、ゲーム会社を岩手移転した際の優遇措置
▷地元大学・専門学校生の就職あっせん
▷ゲーム開発支援
▷県イベントや施設などを活用したゲームのPR
【コラボ企画】
▷観光地、県産品、キャラクターなどのコンテンツ素材の提供
▷県政広報などを活用した情報発信
▷地元大学、専門学校、地元企業との協力体制の構築支援
〈検討①〜⑤を踏まえたゲームとのコラボレーション指針(案)〉
(1)代表窓口を設定し、積極的に情報発信する。窓口へのコンタクトがなければ何事も始まらない。
(2)ゲームの特性を理解し、目的や効果を明確にすることと、目指すもの、求めているものを共有して進める。
(3)県としてできることを明確にすることで、どういう取組が可能かの判断材料になる。
(4)メディア戦略は念入りに行うことで、新たなジャンルの開拓につながる。
(5)県として一体的に取り組むことで、部局間連携など、コラボの効果を最大限高める。
 コラボ検討(案)―第1段階
第1段階―実施中の取り組みを強化
(例)ステーションメモリーズ!×岩手県(三陸鉄道・IGRいわて銀河鉄道):更なる誘客促進、ユーザーの満足度向上を目指し、来年度以降も取組を継続する場合の方向性を、前掲の指針により検討。
・指針1 代表窓口を設定し、積極的に情報発信をする。当研究会をきっかけとしてコラボが実現。来年度以降も同様の体制を継続するメリットあり。
・指針2 ゲームの特性を理解し、目的や効果を明確にする。位置情報ゲームの特性をより活用し、他自治体との共同コラボにより、プレイヤーの満足度向上、誘客促進につなげる。
▷近隣の県と共同で、東北全体を周遊するコース
▷ゲームとのコラボに積極的な各地の都道府県に声をかけ、日本全国を巡るコース など
・指針3 県としてできることを明確にする。特に、上記のようなコラボを行うに際しては、県が他自治体・団体との調整役となることで、より円滑なコラボ推進が可能に。
・指針4 メディア戦略は念入りに行う。今年度と同様に、各種広報ツールを活用した情報発信は、双方に効果大。共同コラボなどの新たな取組を加えた情報発信は、県のPRとしても効果大。
・指針5 県として一体的に取り組む。今年度と同様に、各部局が連携した取組により、効果的なコラボを実現。
 コラボ検討(案)―第2段階
第2段階―得たノウハウを他のゲームにも応用
(例)Ingress:「ステーションメモリーズ!」と同様、他県とコラボしたミッション設定、イベント開催の実施。「Ingress」では既に前例あり(横須賀市との遠距離ミッション設定)。
▷更なる遠距離ミッション例
1.次回以降の国体県とコラボ、Ingressでもバトンをつなげる
2.被災各県の沿岸部を巡り、復興の状況を体感してもらうなど
▷コラボ自治体と「連携協定」を締結。更なる展開へ。
 コラボ検討(案)―第3段階
第3段階―コラボの更なる展開
・第1段階、第2段階で出来た自治体間のつながりを活かし、ゲームをより積極的に活用した自治体PRを実施
(例)各自治体においてゲームを開発。即売会などのイベントに共同出展して頒布する、ゲームをテーマにしたイベントの開催など。
▷各県の代表がゲームで競う、ゲーム版国体
▷ゲーム・サブカルチャーに係るトップ会談(参考:岩手、鳥取、徳島県による「怪フォーラム」)
 結びに
・岩手県では、観光や地域振興の取組の一環として、ゲームとコラボレーションした取組を実施してきた。
・県政の重要課題である「ふるさと振興」にも、ゲームの力が大きな効果をもたらしてくれると感じている。

<報告書を受けて>
 コラボレーションにおいて企業からの提案が多く、また、コラボレーションするパートナーが位置情報ゲームに限らないことは新たな発見であった。
 企業からの提案が多いとあったが、横須賀市のIngressを活用した取り組みは、市職員からのボトムアップで始まったため、数少ない行政からの提案なのではないだろうか。

前の項目 ― 6. 先行文献研究:スマートデバイス向けアプリケーションとゲーミフィケーションによる地域活性化の可能性(田畑恒平、2016年)

目次

次の項目 ― 8. 先行文献研究:Webと実世界とをつなぐ宝探しゲーム「ジオキャッシング」の普及と地域振興への応用可能性(倉田陽平・池田拓生、2011年)


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