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2. 先行文献研究:地域活性化におけるIngressの可能性(岩手県庁Ingress活用研究会報告、2015年)|内田悠貴

<先行研究内容>
 この報告は、2014年度に岩手県の職員有志による自主的活動として調査研究を実施したテーマ「Ingressの活用」について、活動経過、実績、知見などをまとめたものである。よって、岩手県が公式に進める観光政策などと調整や整合を図っているものではなく、必ずしもそれらとは一致しないことが予めことわられている。
 IngressはNiantic, Inc.が提供する陣取りゲームで、
・ 青または緑の2つの陣営のいずれかに所属して、「ポータル」と呼ばれるスポットを占拠して自陣のエリアを拡大していく。
・ ポータルは現実の世界における名所旧跡などが主に登録される。つまり、それは観光スポットである。
・ ゲームを進めるためには、ポータルのすぐ側まで赴いて端末を操作する必要がある。
・ 全世界共通で遊ばれ、2016年1月現在でダウンロード数は1400万を超えたと発表されている。
 これらを基に、「岩手県内の観光地などをポータルにすることによって、ゲームプレイヤーや一般観光客にとって、岩手を訪れる楽しみが増え、また、より多くの観光地を訪れてもらうことができるのではないか?」という仮説を立てた。
 研究会は2014年9月に発足し、14名で活動し、2014年度には2件のイベントを開催した。
 連携のために必要なこととして、
① プレイ効率を考えればポータル数が多い都市部向きのゲーム。地方エリアほど捗らない面がある。
② 一方では、ポータルにまつわる物語の面白さやポータルに行き着くまでのチャレンジ性など、地方エリアでも魅力を創出できる可能性がある。
③ そのためにも、まずはポータルが無ければ何も始まらない(テレビが無ければ放送番組も意味がない)。
④ ポータルの存在を念頭に、「自分達の地域でなら、プレイヤーにどのように遊んでもらえるか、どのようにゲーム+αの興味を持ってもらうか」という視点が必要。
 これまで、『ポータル探して盛岡街歩き』(2014.11.9)と『ポータル大量発生感謝!ハック&キャンドルin盛岡』(2015.2.14)という2つのイベントが開催され、得られたものとして以下の6項目を挙げている。
① 自分達の地域への興味
 ガイド付きの街歩きは、参加者の人気が最も高い。
② Mission機能の有用性
 「地元の面白そうなミッション」への関心は高い。一方、ゲーム内の記述などだけで地域の魅力を分かってもらうには限界があり、イベントに合わせてガイドブックなどを用意するなどの仕掛けは効果がある(ガイドブック単体でも面白い観光資料になり得る)。
③ 地元店舗などとのコラボ
 企画商品が売れるなど一定のメリットありと思われるが今後なお検証が必要か。
④ 地元イベントとのコラボ
 PR効果の面でコラボはメリットありと思われるが、地元のイベント側のほうに明確な効果があったかどうかは不透明。
⑤ 地元プレイヤーとのコラボ
 プレイヤーによる独自企画、地元イベントにちなんだミッションなどが含まれ、こちらの集客効果には非常に大きいものがある。
⑥ 実施そのものが話題
 活動期間における他地域での動き(情報)と反響:
・ 横須賀市商業観光課:HP整備、ミッション紹介、無人島誘客など
・ 東京都中野区:活用研究会の開催
・ 陸前高田市:たかたIngress研究会発足
・ 取材および記事掲載実績:ネットメディア(32件)を中心に、新聞、経済誌などから50件を超える他、個人ブログやSNSでの紹介記事多数
 先述した仮説に対する答えとして、以下の5つが挙げられた。
① 「観光」の創造性の拡張
② 地域の再発見
③ 官民協働の促進
④ 新たな情報発信、O2O(online to offline)
⑤ 地元への経済効果については未知数
 【岩手で取り組むなら】として、以下の5つが挙がった。
① ミッション機能の活用
 ミッションは決められたポータルを巡回して、完遂するとメダルが得られる、言わば「クエスト」。地域の再発見、復興の現場見学・震災学習を絡めた内陸部から沿岸部へのドライブミッション、ストーリー性を持った旅などを地元からプレイヤーに提案できる。
② 宿泊施設や飲食店などとのコラボレーション事例と可能性
・ ある程度限られたエリアでの集客面での有効性と商業との親和性がある。
・ 事例:「らら・いわて ハック&キャンドル参加者向け店内商品5%OFF」
・ 可能性:「材木町よ市」、「盛岡駅前開運100縁商店街」などの取り組みとの相乗効果〜プレイ特典や電源の提供、飲食店とのwin-winな関係作り
③ 地元イベントとの連携
・「若者文化祭」、「いしがきミュージックフェス」など、文化・サブカルチャーとの融和
・「食」をキーワードとする県内各地でのイベントとの連携
④ 公共交通機関との連携
 都市循環バス「でんでんむし」は使える。鉄道は駅をポータルとすることでの活用。
(可能性:三陸鉄道などとの協働で、沿岸域に南北の観光動線を作る。)
⑤ サブカルチャー分野での岩手ファンの拡大
あまちゃんで盛り上がった、サブカルチャー分野での岩手ブランドをさらにIngressで拡張していける。
 【さらなる活用のための課題】として挙がったのは以下の3つ。
① ゲーム自体のハードルの高さ
② プレイヤー以外の人達の理解とプレイヤーマナー
 活用において連携したい人や団体が、Ingressを知らず理解が得られない、というケースにどう対応するか。また、イベントでは、スマホを覗きこむ集団があちこちにいる、といった光景も普段の街の雰囲気とは異なり、歩きスマホなどプレイヤーのマナーによっては地元の人たちと間で思わぬトラブルを招く恐れもあることに留意する必要がある。
③ セグメント広報戦略
 Ingressプレイヤーというセグメント化された層に対し「岩手県」が浸透して、ネット社会において一定の知名度、ブランドを構築できたと思われるが、そこには「意外性」の要素もあるのではないか。ニコニコ生放送による情報発信を最初の例として、今後も、今回のような特定層へのダイレクト発信チャンネルができていく可能性があるが、これをどう活かしていくのか、さらなる試行錯誤が求められる。
Ingressを活用する上での【リスク】として以下の4つが挙がった。
① Niantic社の土俵を使わせてもらっている
 ゲームの管理運営方法は全てNiantic社が決めるもの。今後の運営方針の転換(たとえば有料化、ルールの大幅な変更)、商業主義の導入(行政が加担するのか、との批判が出る可能性)などの状況の変化が起こる可能性がある。ポータルやミッションを申請しても、こちらの思惑どおり通るとは限らない。
② あくまでプレイヤーが主役
 プレイヤーは純粋にゲームを楽しむ。観光などには全く興味ない人も。プレイヤーの主体性を損なうような関与、介入にならないよう、上手く協働していくことが必要。
③ ブームで終わる可能性
 アプリのゲームの寿命はせいぜい3年と言われる。このゲームがごく普通の観光客層まで受け入れられるか、また、どこまでなら地域の人たちに理解してもらえるかをよく見極めて戦略や行動計画を立て、見直す心構えが必要。あまり経済面の効果に期待しすぎるのは禁物。
④ インターネット上の情報の流通特性
 良い評価だけでなく悪い評価もインターネットを通じて瞬時に伝わる。このことも常に意識しておく必要がある。

<報告書を受けて>
 イベント開催する上で、「イベントを開催したい」という単純な動機では不足していて、その地域が抱える課題やプレイヤーコミュニティの理解を得られなければイベントを開催するには至らない面もある。

前の項目 ― 1. 先行文献研究:フィールドミュージアム構築における代替現実ゲーム「Ingress」の活用(白井暁彦・小瀬由樹・上石悠樹・長澤奏美・美濃部久美子・木村智之、2015年)

目次

次の項目 ― 3. 先行文献研究:携帯位置情報ゲームと観光体験—ゲーミング・ツーリズムの実態と展望—(天野景太、2010年)

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