第2章 Ingressについて|内田悠貴

① スマートフォンアプリケーション「Ingress(イングレス)」とは、2016年7月にリリースされたスマートフォンアプリケーション「PokémonGO(ポケモンGO)」を開発・運営するNiantic, Inc.(Niantic社)が2012年11月に招待制テストプレイをAndroidにて開始し、2013年12月にAndroid版アプリを正式リリース、2014年7月にiOS版アプリを正式リリースした位置情報ゲームである。
 プレイヤー*1は、XM(エキゾチックマター)と呼ばれる架空の物質の使い方を巡って対立する、青(Resistance/レジスタンス)と緑(Enlightened/エンライテンド)の2つの陣営のどちらかに所属する。プレイヤーは外に出て、世界各地を歩き、各地に存在している「ポータル」を訪れて様々なアクションを起こす。アプリ内の核となる要素の「ポータル」同士をつないで、コントロールフィールドと呼ばれる三角形のフィールドを形成して大きさを競うというのが概要である。

② ポータルは、寺社仏閣、城跡をはじめとする歴史的建築物や公園、市役所などの公共建築、芸術作品などの人工物、その地域特有の場所などが基本である。
 基本的に、ポータルはプレイヤーが申請し、Niantic社によって一定の基準*2に基づいて審査・承認されてIngressのゲーム画面上に現れる。ポータルの申請件数が数百万件に上り、2015年9月に新規申請が止まった*3が、2017年9月からは限定的に再開された*4

図1 左:東京都内におけるIngressのポータルとコントロールフィールドの一例    右:ポータルを選択した際のメニュー (出典:共に筆者作成)

 Ingressにおいては、アプリケーション内においてプレイヤーの様々な行動が実績として反映される仕組みがあり、以下の図2のように、プレイ開始からこれまでいくつの未訪問のポータルを訪れてハック*5したか、図3のようにプレイ開始からこれまでどれくらいの距離を歩いたのかなどの実績がある。

図2 Ingressでの実績:Explorer (出典:筆者作成)

図3 Ingressでの実績:Trekker (出典:筆者作成)

③ Ingressがもたらす影響というのは、アプリケーション内に留まらず、現実世界の社会にも様々な影響を与える。
 最初に挙げるのは、以下に示されるリアルイベントの数々である。

図4 XM Anomaly: AegisNova Tokyo 2016.7.16
出典:Masashi Kawashima at Google+ : “[English follows]エージェントの皆さん、Ingress 史上最大のイベント、Aegis Nova Tokyo に参加してくれて、本当にありがとうございました。”,
Retrieved from: 
https://plus.google.com/+MasashiKawashima/posts/3roEC1R7z8h,
posted on July 19th, 2016, last accessed on December 10th, 2017.

図5 XM Anomaly: SHONIN Kyoto 2015.3.28
出典:John Hanke at Google+ : “Overflow crowd at #Shonin Kyoto. #Ingress”,
Retrieved from: https://plus.google.com/+JohnHanke/posts/ddQrpLAdru2,
posted on March 28th, 2015, last accessed on December 10th, 2017.

図6 MissionDay熊本 2016.12.11
出典:Ingress Japan at Google+ : “2016年を締めくくるMission Day熊本と埼玉六宿、たくさんのご参加ありがとうございました!”,
Retrieved from: https://plus.google.com/+Ingressjapan/posts/2UGDFbJy3SP,
posted on December 21st, 2016, last accessed on December 10th, 2017.

図7 InitioTohokuMission 女川MeetUp 2016.4.24
出典:[たかはしまさき] at Google+ : “Initio Tohoku Mission 女川、終了しました!たくさんのAgentの皆様にお越しいただきました。ありがとうございました!”,
Retrieved from:
https://plus.google.com/110483659806940758964/posts/EKCxXJxD8HE,
posted on April 24th, 2016, last accessed on December 10th, 2017.

図8 Ingress First Saturday:青森県にて
出典:[Gardice Res.(Lv15)] at Google+ : “#ingressFS First Saturday in Aomori 2015.05.02 Res : 22 Persons APGain : 2147751 Enl : 18 Persons APGain : 1692034”,
Retrieved from:
https://plus.google.com/+ShinjiOokawaGardiceforIngress/posts/VAvGNpwQoz2, posted on May 2nd, 2015, last accessed on December 10th, 2017.

図9 Ingress First Saturday:大阪府にて
出典:[morisato swingwings(もりさと・swingwings)] at Google+ : “朝刊でーす!”, Retrieved from:
https://plus.google.com/105254180335391099064/posts/DzybErJeHJi,
posted on October 6th, 2015, last accessed on December 10th, 2017.

表1 Ingressイベントの種類とその企画の中心、および参加者数 (出典:筆者作成)

 Ingressにおいて、開催されるリアルイベントは主に図9に挙げた3種類であり、企画の中心となるのは各種イベントで異なる。
(1)アノマリー(Anomaly):アノマリーは日本でこれまで11回開催された*6。Niantic社が主催をし、基本的に開催地を選定する段階から開催地の自治体への交渉、当日の開催までを担当する。日本全国からプレイヤーが訪れる。内容は、Niantic社によって指定された特定のエリア内において指定されたルールに基づいて青(Resistance/レジスタンス)と緑(Enlightened/エンライテンド)の2つの陣営が得点を競うものである。
 参加するプレイヤーは無料または有料のチケットを取得すると参加の証として以下のようなメダルを受け取れる。

図10 XM Anomaly Shonin のメダル (出典:筆者作成)

図11 XM Anomaly Aegis Nova のメダル (出典:筆者作成)

(2)ミッションデイ(MissionDay):ミッションデイは日本では今日までに31ヶ所で開催された*7。日本国内では基本的に、地域のプレイヤーが内容を企画して、自治体に企画を持ち込む。自治体との連携が確立した後、Niantic社にミッションデイを開催したい旨を申請するという過程を経ながら、開催に至る。日本全国からプレイヤーが訪れる。主催者側が各所に設定した「ミッション」*8を参加するプレイヤーが複数ヶ所を巡ることで、「ミッションメダル」(図12)の獲得に加えて、実績として「ミッションデイメダル」(図13)も獲得することができる。

図12 ミッションメダルの例 (出典:筆者作成)

図13 ミッションデイメダル:プレイ開始からこれまでのミッションデイへの参加回数をカウントする。(出典:筆者作成)

(3)ファーストサタデー(First Saturday):ファーストサタデーは日本でこれまでに60回以上開催された*9。地域のプレイヤーが企画・会場の選定・開催を全て担うが、アノマリーに比べると規模は小規模である。参加者は開催地域のプレイヤーが中心。主に初心者育成などのプレイヤーによる企画が行われる。
(4)Initio Tohoku Mission:東日本大震災から5年が経過し、少しでも多くの人に東北を訪ねるきっかけを作ることをテーマにNiantic社が2016年4月中旬から2016年5月末の期間限定で、岩手県・宮城県・福島県の沿岸部エリア限定でポータル申請を再開したものである。女川MeetUpは宮城県女川町で2016年4月24日に開催され、同日に岩手県陸前高田市、福島県相馬市、福島県いわき市でもMeetUpが開催された*10
 こうしたリアルイベントの数々が人の動きやプレイヤーコミュニティの形成に影響を及ぼしている。

④さらに、Ingressは、ビジネスや自治体の観光振興にも影響をもたらしている。
 ビジネス面において、Ingressでは今日まで複数の企業とパートナーシップやコラボレーションの取り組みを進めてきた(表2)。特に、パートナーシップの面においては、図14のように、パートナーシップを結んだ企業の店舗などをポータルとすることによる広告収入モデルが設定されている。

表2 Ingressにおけるパートナーシップやコラボレーションを実施してきた企業・組織・ブランドの例 (出典:筆者作成)*11

図14 Ingressにおける広告収入モデル (出典:筆者作成)
図14内の記述の出典:
Cnet Japan(2016年3月21日)『Ingressは「究極のネイティブアド」--ナイアンティック社長の村井氏』、https://japan.cnet.com/article/35078185/, 2017年12月12日参照。
HRナビbyリクルート(2016年2月23日)『射幸心あおらない–Ingressが描く「究極のネイティブアド」とは』、http://hrnabi.com/2016/02/23/10394/, 2017年12月12日参照。

 自治体の観光振興においては、岩手県と神奈川県横須賀市がIngressを用いた観光振興の取り組みを2014年からいち早く実施している。岩手県では「岩手県庁Ingress活用研究会(後の岩手県庁ゲームノミクス研究会)」が職員有志によって立ち上げられ、後述の報告書を発表するなど積極的に活動し*12、神奈川県横須賀市でも特設のホームページ制作*13やIngressプレイヤーに向けた猿島航路割引を実施するなど積極的に活動している。

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*1 Ingressにおいて、プレイヤーは「エージェント」と呼ばれているが、本論文においては出典を除いて表記を「プレイヤー」に統一している。
*2 Ingress、Ingressヘルプ「ポータル候補の基準」、https://support.ingress.com/hc/ja/articles/207343987, 2017年12月12日参照。
*3 ケータイWatch(2016年11月22日)『ナイアンティック川島氏に「Ingress」の新ポータル審査機能を聞く』、https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/interview/1031205.html, 2017年12月10日参照。
*4 Masashi Kawashima at Google+: “Finally, we could reactivate portal submission. It's time to move! 遂に新規ポータル申請が再開されました。”, https://plus.google.com/+MasashiKawashima/posts/3ZdXEJs83Ka, posted on September 26th, 2017, last accessed on December 12th, 2017.
*5 ハック(HACK):半径40m以内の距離でポータルに近づいて画面上にある目的のポータルをタッチし、メニューの「HACK」ボタンを押すことで様々なアイテムを入手する行動。
出典:『【MMMMORPG】Ingress攻略(wiki風味)【大規模社会実験】』内の項目「HACK」、http://ingressjp.blogspot.jp/p/hack.html, 2017年12月11日参照。
*6 Ingress, “Prior Ingress Anomaly Events”, https://www.ingress.com/events/archives_xm.html, last accessed on December 10th, 2017.
*7 Ingress, “Mission Day”, https://www.ingress.com/events/archives_md.html, last accessed on December 10th, 2017.
*8 ミッション(Mission):指定された複数のポータルを巡り、ハックなどの指定された行動を行うミニゲーム。全てクリアすると図10のようなミッションメダルが獲得できる。出典:岡安学著、Niantic, Inc.監修(2016年)『INGRESSを一生遊ぶ!』内、「Ingress基本用語集」、宝島社、pp.8。
*9 Fev Games, “IngressFS Archives”, https://fevgames.net/category/ingress/ingressfs/, last accessed on December 10th, 2017.
*10  Ingress Japan at Google+: “東北沿岸部でポータル申請を期間限定で復活、記念イベントを4/24(日)に開催します”, Retrieved from: https://plus.google.com/+Ingressjapan/posts/h5LB3mZKgS7, posted on March 30th, 2016, last accessed on December 10th, 2017.
*11 その他、コラボレーションを行ってきた企業については以下を参照。
[ihara kairi(desire3)] at Google+: “Ingressスポンサーとか PokemonGOスポンサーとか Niantic提携企業一覧”, Retrieved from:
https://plus.google.com/+iharakairi/posts/Ep7mf9qJpKq, posted on March 14th, 2016, last accessed on December 18th, 2017.
*12 岩手県庁ゲームノミクス研究会は2017年3月末をもって活動を終了している。岩手県庁ホームページ内の岩手県庁ゲームノミクス研究会のページを参照。
岩手県庁ゲームノミクス研究会(旧岩手県庁Ingress活用研究会):http://pref.iwate.jp/kouchoukouhou/031399.html, 最終更新日:2017年3月31日、参照日:2017年12月10日。
*13 観光情報サイト「ここはヨコスカ」、『STRATEGY BASE FOR INGRESS IN YOKOSUKA』、http://www.cocoyoko.net/ingress/, 2017年12月12日参照。
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前の項目 ― 第1章 はじめに

目次

次の項目 ― 第3章 1. 先行文献研究:フィールドミュージアム構築における代替現実ゲーム「Ingress」の活用(白井暁彦・小瀬由樹・上石悠樹・長澤奏美・美濃部久美子・木村智之、2015年)

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AR+モードを使いたいためにARCore対応Androidスマホがほしいです。PIXEL3とか。 https://developers.google.com/ar/discover/supported-devices あとは、アメリカかロンドンに行きたいですね。

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RuinDig

位置情報ゲーム「Ingress」に関する学士論文―内田悠貴

学士論文(卒業論文) 『位置情報ゲーム「Ingress」を用いた自治体での観光振興の取り組み—神奈川県横須賀市と東京都中野区の事例研究によるモデル構築—』|東洋大学国際地域学部 国際地域学科国際地域専攻 内田悠貴|キーワード:位置情報ゲーム、Ingress(イングレス)、横...
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