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11. 先行文献研究:位置ゲームと観光振興―イングレスを例として―(宮武清志、2015年)|内田悠貴

<先行研究内容>
1.はじめに
 スマートフォンに代表されるように「どこでも・誰でも」インターネットにアクセスし必要な情報を得られる。観光行動を見ても、自家用車やレンタカーを利用した「ドライブ観光」が急増している。そのため、観光行動の自由が飛躍的に向上し、行ってみたいところであれば「いつでも・どこへ」でも行けるようになり、魅力的な地域情報を的確に観光客へ届けることができれば、従来ではあまり訪れなかった場所でも観光客を誘致できる可能性が出てきている。
 本先行研究は、スマートフォンの普及と並行して利用者が増加している位置ゲームの1つである「イングレス」に着目し、その効果や同ゲーム利用者の地域への訪問を促すための留意点や課題を明らかにすることを目的としている。
2.位置ゲームについて
 位置ゲームとは携帯電話の位置登録情報を利用したゲームである。ゲームの内容は様々で、スタンプラリー的なものから移動距離によって都市やコロニーが成長するシュミレーションゲームなど様々な種類の位置ゲームが提供されている。
位置ゲームは通常のビデオゲームと異なり、仮想空間のみでは完結せず、現実空間での移動が不可欠となるため、外出機会の増加や特定の地域・施設などへの立ち寄りなど、地域経済などに対する直接的な効果が見られる。また、移動手段である公共交通機関とのタイアップ企画などもみられるなど、今後も様々な活用方策が期待されている。
3.イングレスについて
 「イングレス(Ingress)」はNiantic, Inc.が開発運営するスマートフォン向けのオンライン位置情報ゲームで、2013年12月15日に正式運用を開始している。内容は全世界を舞台に2つの陣営に別れてそれぞれが陣地を拡大するのが目的である。
 プレイヤー数は明らかにされていないが、Niantic社の発表によると、2017年11月現在、2000万ダウンロードされていて、また日本国内での全国的なイングレスイベントの参加者だけで5000名規模であることからかなりの数の利用者があると推測される。
(2)イングレスの効果
 イングレスに限らず「位置ゲーム」には以下のような共通した効果がある。
①外出機会の増加
 位置ゲームを進めるためのアイテムなどを獲得するために、実際にチェックポイントに赴く必要があるため、必然的に外出機会が多くなる。
②健康増進効果
 移動では、遠方の場合は自家用車や公共交通機関を利用することになるが、近隣地域やチェックポイント周辺では徒歩あるいは自転車などを利用することになり、運動量の増加による健康推進効果が期待できる。
③新しい観光対象の創出
 従来観光対象としては認知されていなかった施設や場所がチェックポイントなどに認定されることにより、外出目的や観光対象として認定され、利用者の来訪頻度が増加する。
④地域の文化資源の認知
 イングレスにおいて、現実世界の史跡や芸術作品、公園、郵便局などが登録されたゲーム内での拠点になる「ポータル」は、観光客や地域住民が当該地域の歴史・文化資源を楽しみながら認知・学習することができる。また、「ポータル」と同じくイングレスの機能の一つである「ミッション」はポータルをテーマ毎にまとめた周遊ルートであるため、効率よく周遊できる。一方、地域側としては従来の街歩きマップなどと同じ効果の情報媒体を格安で構築できるものである。ミッション数はポータル数や種類数にもよるが、札幌市の場合400以上のミッションが登録されている(2015年9月現在)。
⑤地域における観光振興効果
 後述するアンケート調査結果からも分かるように、ゲームを目的として地域を訪れる利用者がいることから、来訪による地域経済効果が期待できる。
4.イングレスを活用した観光振興の取り組み例
 イングレスに期待される様々な効果を地域振興に活かす取り組みが日本各地で進められている。中でも岩手県は2014年9月スタートである。岩手県では盛岡市を始め、陸前高田市、滝沢市、一関市でも取り組みが始まるなど地域的な広がりを見せている。また神奈川県横須賀市も熱心に取り組みを進めている自治体の1つである。

表1 全国のイングレス活用取り組み事例

5.イングレス利用者の観光行動
 本先行研究では、イングレス利用者の観光行動やニーズを把握するため以下のような内容でウェブアンケートを実施した。
調査期間:2015年9月18日~23日(6日間)
調査方法:Facebook上のイングレスグループ2種類に対してアンケート票へのURLを投稿し、ウェブアンケートへの協力を依頼
回収数:53票
(1)回答者の属性
 回答者は「40歳代(34.0%)」が最も多く、「30歳代(24.5%)」、「50歳代(22.6%)」の壮年層が多い。プレイヤーの経験値を示すレベルは8以上が83%を占めており、大半がゲームに熟練している者と言える。また居住地域は関東地方が半数を占めている。
 ゲーム実施の頻度は「ほぼ毎日(73.6%)」が最も多く、またイングレスに関するイベントには54.7%と過半数の回答者が参加経験を持っている。
(2)利用者の観光行動
 ゲームを目的に日帰り旅行に出かけた経験については、「たまにある(30.2%)」、「よくある(15.1%)」で約半数の回答者が経験ありと答えている。また宿泊旅行の経験では「たまにある(30.2%)」、「よくある(3.8%)」と3割程度が経験ありと答えている。
 ゲームを目的に他地域へ出かける際に重視する項目について、5段階評価してもらった。その結果ゲームに直接関係ある「ポータル(4.1pt)」が最も多く、「ミッション(3.0pt)」、「イベント(2.9pt)」が続いている。
 またゲームを実施する上での環境整備に関する項目としては、「名物の食べ物(3.8pt)」、「観光スポット(3.8pt)」が最も高く、「街並み(3.7pt)」、「自然環境(3.6pt)」、「自宅からのアクセス(3.5pt)」が続いていて、既述の「ミッション」、「イベント」よりも重視されていることが分かった。
 こうしたことから、ゲームに直接関わる高奥に加えて、上述のような地域が具備すべき環境を提供できることにより、一層集客力のある地域形成が期待できる。
6.今後の課題と展開方法
 本先行研究で実施したアンケート調査は、イングレスの利用者の地域への来訪を促進するための環境整備について検討を行うための基礎資料を得るために実施したが、回答数が予定よりも少なく、他の関連ポータルサイトへの投稿などにより制度の向上を図っていく必要がある。さらに質問内容も基礎的なもので、本アンケート調査の結果を踏まえた、詳細な調査が必要である。また、イングレス利用者や全国で取り組みを進めている団体などへのヒアリング調査なども実施し、地位域において取り組んでいく際の検討課題や留意点を明らかにしていく必要がある。
 本先行研究により地域における観光振興を図る上でイングレスを活用していくためのヒントがある程度明らかになったと考えるとしていて、今後は研究結果を踏まえた、より効果的な取り組みを地域において進めていくことが期待されると述べられている。
 いずれにしても「イングレス」のような大規模なオンラインデータベースシステムを無料で利用でき、地域資源に関する情報発信を容易に且つ低いコストで構築できることから、今後はより多くの地域での活用が待たれるところである、と本先行研究は結んでいる。

前の項目 ― 10. 先行文献研究:ジオキャッシング:現実世界に埋め込まれたゲームとその観光的要素(倉田陽平、2012年)

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次の項目 ― 12. 先行文献研究:観光ネクストステージ スマホのゲームIngress(イングレス)を観光に活かす 岩手県庁Ingress活用研究会の活動から(保和衛、2015年)

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