コンピュータとインターネットの四半世紀

僕は子供の頃からコンピュータが好きで、PCやインターネットの世界をずっと見てきたつもりだ。振り返ってみるとこの四半世紀で僕らを取り巻く世界は劇的に変わったなと思う。とりとめがなくなるがランダムにいくつかリストアップしてみたい。ちなみに僕はプログラマなのでそういう視点からのものの見方になる。

まず第一に、この四半世紀でコンピュータが本当に人々の生活に浸透した。いまでは誰もが惚れ惚れするような素晴らしい出来の小型のコンピュータを持って(スマホだ)、コンピュータが得意なこと(通信や検索など)を自然にしている。

コンピュータはポップカルチャーの一部になり、コンピュータを使いこなすことやプログラミングできることのイメージがとてもよくなった。かつてはコンピュータに詳しいことはどちらかといえば社会的にネガティブなイメージを含んでいたように思うけど、いまでは逆にプログラミングできない人がネットやオンラインビジネスについて語っても引け目を感じるような時代になった。

PC業界はMicrosoft一辺倒ではなくなった。90年代のMicrosoftは圧倒的に巨大で強力で、目をつけた業界では手段を選ばず競合を潰しに来るという感じで、それに好意的なイメージを持つというのはなかなか考えられなかった。ところが今はSatya Nadellaの元でWindowsとOfficeとクラウドの会社に脱皮しようとしていて、オープンソースにも好意的で、まるで別の会社のようだ。

Appleが劇的に復活した。倒産寸前だったAppleが時価総額で世界最大の会社になり、Microsoftがプラットフォーム支配力を失っているとは、最初はまるでパラレルワールドにきたように思ったけど、Appleの強さとMicrosoftの良き市民さで、今となっては90年代〜2000年代が逆にパラレルワールドであったような気がしてくる。

コンピュータ業界の幅は驚異的に広がった。かつてはコンピュータ業界といえばハードかソフトそのものを売る業界だったが、いまではApple、Amazon、Facebook、Google、Microsoftといった巨大な会社が、それぞれに違うビジネスモデルのビジネスを展開している。これはかつてなかった業界構造で、それぞれの会社がある分野では競合しつつも別の分野では協力し合うという複雑な関係が発生している。どの会社も莫大な利益を上げていて、これらの会社がアメリカの企業時価総額のトップを占めている。

ハードウェアもソフトウェアもWebも、品質の水準が極めて向上した。昔は動けばいいというレベルで、あら探しをすればいくらでもできるものが多かったが、いまではどれも実用十分な性能を持っているだけでなく、美的にも満足できるものが多くなった。機能のあるなしだけでなく、具体的に表現しづらい「よさ」のようなものに、きちんとエンジニアリソースを割いて品質を向上してきたことに全般的に感謝したい気持ちがある。Appleの貢献は特筆すべきだけど、それ以外の会社もがんばったと思う。

特にここ10年ほどで、人間並みの認識能力が必要そうな多くの問題が解けるようになった。人間のようなAIに達するにはまだ技術的飛躍が必要そうだけど、囲碁で人間のトップ棋士を驚かせるような「直感的な」プレイをできるようになったというのも記憶に新しい。ムーアの法則に従って量的に発展してきたコンピュータ業界に対して、これは質的にまったく異なることが進行中であるように感じる。おそらく機械学習というものはこの25年間で最大の進歩であって、これがコンピュータの発明以来の大きな方向転換に繋がるのだろうという感じがある。

漠然とした言い方だが、コンピュータ業界はずいぶん「良い」方向に向かってきたと思う。オープンソースソフトウェアが広く使われるようになって、ソースを見たり開発に参加したりすることも普通に可能になった。オープンなインターネットはおおいに普及して、誰も特に誰かからライセンスや許可を得ずともWebサイトを立ち上げることができる世の中になった。当たり前すぎて今となってはなんとも思わないが、これは実はすごいことだ。

そしてまた漠然とした言い方だが、コンピュータと通信技術の進歩が社会を良い方向に変えてきたと思う。誰もがなんでもオンラインに書けるようになったし、なんというか、技術の進歩が弱き者に力を与えるということがなされてきたように思う。インターネットを支えるソフトウェア企業はこぞってだいたい「進歩的」であり、ダイバーシティを広めたり民主主義を擁護しようとしている。これは偶然ではなく、経営陣と従業員の個人的志向、それとアメリカ的な価値観の表れのように感じられる。

今までに何度もコンピュータ業界はこれで終わりだ(安定だ)と思うようなことがあったが、それは常に間違っていた。90年代にはおよそ考え付くようなWebサービスはすでに作られていて、Yahooがインターネットの中心になるのだと思っていたけど、まったく違った。2000年代に入ってからも2010年代に入ってからも急速な変化は何度も起きた。これからもそういうことは起きるのだろう。コンピュータ業界というのはとても面白いところだ。

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