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インドでケトン食療法③:ケトン比3:1の実践

様々な薬を試してもてんかん発作の数が減らず、ケトン食療法を勧められたはるるん。インドの栄養士さんに相談しつつ、一時帰国前にと見切り発車的になんとなくケトン食療法をスタートした。

日本でケトン食療法を仕切り直し

5月8日からなんちゃってケトン食療法を初めたはるるん。当初は3日ほどでケトン体が出だし、ケトン試験紙のチェック表で言うところの3+程度を保ち、発作の回数も減ったように見えた(はるるん、ケトン食療法をフライングスタート)のだが、1ヶ月近くすると、ほとんどケトン体がでなくなり、1+または2+にとどまるようになり、発作の数もまた少し増えてしまった。

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そのまま6月の下旬にいくつかの懸案事項と一緒に一時帰国をすることになり、その際、以前お世話になっていたこども病院で栄養士さんにケトン食療法の進め方について相談することにした。

普通は日本でケトン食療法を始める際は、入院治療して始めるらしく、「えー始めてるんですか?どうやって??」と仰天気味だった主治医の先生と栄養士さん。

とにかくインドでは早口で高圧的な栄養士さんが何の資料もなくヒンディー語混じりの英語で説明してくれただけだったので、とりあえずイチから日本語で説明してもらってもいいですか、とお願いし、ようやくケトン食糧法のノウハウがちゃんと理解できた気がした父と母。栄養士さんが紹介してくださった本もAmazonで購入し、そのメカニズムや方法を読んで理解を進める。ちなみに購入した本はこちら ケトン食の基礎から実践まで 改訂第2版

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要は、脂質・タンパク質・炭水化物から生成されるグルコースと脂肪酸の量か比率を計算し、ケトン体が出やすい比率(ケトン比)を保った食事を維持していく、というのがケトン食療法の基本のようだ。一般的にこのケトン比は、脂質:(タンパク質量+炭水化物量)として計算する。

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てんかん発作の治療には、このケトン比が1.5以上になると有効とされ、通常は3〜4に設定するらしい。シェファリの話では、徐々にこのケトン比を上げていく方法をとるのがよいとのことだった。

私達が5月に見切り発車で始めた時は、修正アトキンズ法という炭水化物の量のみをセーブする方法をとっていた。だって、ケトン比をきちんと計算するためには食事に使うすべての食材の炭水化物量、タンパク質量、脂質量を確認して計算する必要があり、そんなのやってられるか!って思ったから。あとは何よりも、修正アトキンズ法でスタートして効果があれば、より厳しいケトン食療法でも効果が認められるだろう、という論文を夫が見つけてきていたから。まずはゆるくやってみよう、とスタートしたのだった。

日本の主治医や栄養士さんによると、小児のてんかん発作の治療には一般的にケトン比を計算して行くほうがよい、更に始めてしばらくするとケトン体が出にくくなる時期があるため余計に厳格に計算した方がよい、とのことだった。なるほど〜

そこで日本の病院で一般的な目標値に設定するらしい3:1にケトン比を設定し、より細かく計算していってみることにした。ゆるいやり方でも多少の効果があったのだから、この際労力がかかってもきちんとやってみるべきだと思ったのだ。

無論、ただケトン比を3:1にするだけではない。ハルに必要なカロリー、そしてタンパク量を設定した上で、必要な栄養をとりながら、かつケトン比を3:1に維持していかなくてはならない。肉、魚、乳製品、そして、野菜、それぞれの炭水化物量、タンパク量、脂質を調理するたびに検索し、量を計算し、そして脂質を足して完成させる。

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…うむ。これを毎回メニューごとに計算していくのは計り知れない労力が必要だ。

しかしきちんと計算し始めてからケトン体は3+から4+をまたキープできるようになった。発作の数もまた落ち着いてきたようだ。計算していくことには価値があるらしい。

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シェファリだ、シェファリに会おう。今こそ彼女に頼ろう。インドの食材をよく知っていて、栄養知識も経験も豊富な彼女に、メニューを作ってもらおう。

シェファリとの再スタート

というわけでおそるおそるシェファリに連絡をとる。私一人で会うのは怒られそうで(勝手に始めよって!って…)怖いので、夫と一緒に会える日を探ったが、うまく外来の時間と合わず、結局土曜に自宅に訪問してもらうことになった。ちなみにインドでは何かを習ったりケアをお願いするときに家に来てもらうことが実に容易だ。多少費用はかかるが、あまりシステムに縛られていない感じがして、臨機応変に対応してくれる。インドの良いところだと思う。

とりあえず私達のここ2ヶ月の経緯を説明することから始めた。日本でケトン比のことをきちんと理解してからは、できる限りケトン比3:1になるように計算しているし、ケトン体は3+か4+くらいが出るようになっている。やり方としてはこれでまあまあOKかという感じで聞いてみると、

「そんな大体でやった方法に、点数はつけられないわ」

とばっさり。

「私がちゃんとすべて計算してメニューをつくるから、全てそのメニューに従って、一滴残らずそのメニューをハルに与えて。ちゃんとそれに従えないなら、フォローはできないわ。」

は、はい。

「ケトン体試験紙は、おしっこをディップさせてからどのくらい待っている?」

そもそもハルの場合おしっこを取るのが難しいので、おむつに試験紙を押し当ててチェックしている。そのため徐々におしっこが染み込んでくるので、このタイミングから何秒、とかいうのは結構難しい。少し考えて、

「うーん、1分くらい待ってから見てるかな」

というと、

「だめね。40秒。試験紙をディップしたらぴったり40秒まって、色をチェックするのよ」

とまたまたバッサリ。

「え、ていうか、おしっこディップできないし。おむつに押し当ててるってさっき言わなかった?おむつ絞っておしっこ取れって言ってたけど今のおむつ性能いいから絞れないんだよ、しらないの?おむつに押し当ててちぇっくしたことあんの?ぴったり40秒とかどっから数えればいいの?」

と言い返すことはさすがにせずに、苦笑いでごまかす日本人の私。

相変わらずの先生然とした態度に、初めてシェファリに会う夫も「おおっ」とびっくりしているらしく、なんかホッとする。それでも、男性で、そしてある程度の権威がある職業のせいか、明らかに前回とは態度が違うと感じる私。

「最初にはっきりさせておきたいけれど、ハルはロボットじゃないから、毎日機械的に同じものを食べるのは嫌がるし、好き嫌いもあるし、与えられたメニューを残らず与えるというのが難しいこともある。」

夫が毅然とした態度で言ってくれたことが、何よりもありがたかった。心の中で拍手喝采の私。そーだそーだー!

この一言で、「もちろん、彼女がロボットじゃないことはよくわかっているわ」と言いつつも、たじたじになるシェファリ。

とりあえずチキン、マトン、卵、パニールの4パターンのレシピ(レシピと言うか、材料表でしかない)をその場で作り、これでしばらくやってみて、また報告して、と言って去っていったシェファリ。

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1日4食の設定で、4つしかレシピがなくてどうするのか?と思ったけど、スパイスや味付け、あとはこの野菜AとBのリストの中から野菜を選ぶことで変化をつけろ、ということらしい。それはそれで合理的。

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ただ、食事は1ミリも残しちゃダメよ、とかめちゃくちゃ厳しいことを言ってた割に、鶏肉は鶏肉、としかかいてないし(普通は胸肉かモモ肉かでだいぶん栄養成分が変わるはず)、レシピにかかれている野菜Aと野菜Bのリストは炭水化物量で言えばかなりミックスされていて何を指標にAとBに分けているのかいまいちわからないくらいいい加減で拍子抜けした。

ちなみに病院でのコンサル料は800ルピーだったのが、今回は個人的に家に来てくれたため、多分シェファリが設定したであろう料金、2000ルピー、領収書はなし。…自宅訪問は今回だけでいいな。まあ夫がバシッと言ってくれたのはよかった。

前回の記事で問題だったとろみについては、いろいろ試した結果、飲水については寒天で代用、そして肉や魚をなめらかにするには、芋類の代わりに茄子が効果的であることがわかった。

と、簡単に聞こえるかもしれないけれど、実に試行錯誤した結果である。寒天は一時帰国前に思い至って日本で栄養士さんにも相談して利用できることを確認し、大量に日本で買い込んできて、ハルが飲みやすい量を何度も実験して見つけたし、肉や魚についても、実にいろんな野菜と一緒に試してみた。

シェファリに相談した時は「ノープロブレム、代わりはあるわ」と口では言っていたけれど、具体的な提案は特に何もななかった。私たちが自分で見つけ、自分で実験して最適解を探したのだ。

この国ではあらゆることについて、自分が主導権を握って進んで行かない限り、何も進まないと思っていた方が良い。改めて実感した。

新たな問題

こうしてハルのインドでのケトン食療法は再スタートを切った。私は見知らぬインドの野菜について勉強し、お手伝いさんと一緒に使い方を学んでいった。

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野菜やスパイスで味つけを変えるにしても、さすがに4つのタンパク源でのレシピだけでは飽きてくる。きちんとこの4つのレシピでフォローするように、と言われたけれど、それはスルーしておいて、シェファリが作ったレシピからタンパク量を逆計算して特定し、それに基づいてエビやバサなどの魚や豚肉についてもレシピを計算して作るようにした。

今は、どういうわけか朝イチはケトンの値が低めに出るものの、概ね3+から4+を維持できている。

ところが3週間たったいま、また異変が起こりつつある。

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どうだろう。なんだかハルがぽっちゃりして来たと思いませぬか?いや、もちろんいいことかもしれない。これまで体重が増えなくてむしろ困っていたくらいだから。お手伝いさんのパミさんは、我が子のように可愛がっているハルが体重が増えたことを、「可愛く見えるようになって嬉しいわ!」と手放しに喜んでいる。

しかしどうだ、この増えるスピードは。1年間に0.5kg増えるかどうかだったハルが、この1週間で0.5kg増えた。ケトン食療法を始めてから2ヶ月で2キロ増えた。これは流石に急すぎるだろう。

普段抱っこをしてごはんをあげたり入浴させたりしている私たちには、少しの増加でもだいぶんずっしりと変化を感じる。重いのだ。このままでは腰を痛めてしまう。

もちろん最初から比較すればケトン食療法を始めて多少発作は減った。半分くらいだろう。ただ、ケトン体が十分に出ているにもかかわらず、ここ数週間発作の数が減らないのは、体重が急速に増加して薬の量が相対的に減っているせいもあるのかもしれない。それだけではないとは思うけれど…

まずはカロリーコントロールをもう少し調整していく必要があるだろう。けれども、今の食事はカロリーの割に食べる量は少なく、これ以上量を減らすとハルにとっての満足度は低いのかもしれない。発作の数が減っていないことを考えると、ケトン比を上げたいところだけれど、ケトン比を上げるとより食べられる量は減ってしまうだろう。

ぽっちゃりしてかわいくなった(?)はるるんのケトン食療法はもう少し様子見が必要そうである。



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