おしゃれな話

今日は美容院に行った。実家の近くにある何年も通っている美容院。

美容院なんてものは何回行っても緊張する。自分はこの空間にはそぐわない気がするし、心なしかスタッフも他の客も私のことを笑っているようなそんな気になる。

美容師というのはなぜ皆揃いも揃って話しかけてくるのだろう。皆例外なく話しかけてくる。その上、皆例外なく別に面白くもない同じ話題である。出身の話、学校の話、これからの予定。そんなもの聞いてどうするというのだろう。美容師の専門学校には「美容室でのコミュニケーション入門」みたいな名前の授業がきっとあるのだろう。流行も何もわからないおじいさん講師が担当しているんだろうな。
そもそも、私と美容師との間でまともな会話が成立するわけがない。だって、向こうは刃物を握っているんだもの。私が生意気な返事をしたら即座に向こうは私の頭を真っ二つにできる。その上、私は椅子に座らされてわざわざ動きにくいように重たいポンチョのようなものを着せられている。逃げ場なんてない。私の発言に私自身の命がかかっていると思うと、緊張して普段に増してまともなコミュニケーションができなくなるのである。

シャンプーの時間だって怖い。こっちは目隠しをされて寝かされているのだから、なにをされているのかさっぱりわからない。美容師がシャンプーをしながら変顔してコサックダンスを踊っていないとも言い切れない。頭になんらかの液体を塗られているのは感覚でわかるが、それがドス黒いトカゲの血液でない保証はどこにもない。

よくInstagramで美容院行った時のビフォアフター撮ってる人いるけどあれってどうやって撮ればいいのかずっとわからない。美容師の人に自撮りしていいですか??って聞けばいいんだろうか。私も撮ってInstagramにあげてちやほやされたい。

美容師が仕事を終えて、鏡を見せて感想を求めてきた時って完璧です!意外に答え方あるのだろうか。もし仮に、私が、うーん…みたいな微妙な反応をしたら美容師はどうするのだろう。もっとはっきりと、切りすぎです。って伝えたら私の髪伸ばしてくれるのかな。

私の通っている美容院には、有名なスポーツ選手が通っているらしく、レジの後ろにはサインが飾られている。サインを貰う時、美容師の人は、よし、明日あの人が来るから色紙とペンを用意しておこうとか思って買いに行ったのだろうか。実際その選手が来て、どのタイミングでサインをお願いするんだろう。来てくれた時?帰り際?それとも今の私みたいに椅子で待たされてる時間の暇つぶしとしてお願いするのかな。何年も通った美容院でサインを求められた時ってどんな気持ちなんだろう。私もそんなに有名になったんだって嬉しいのだろうか。私だったら嬉しくないな。昔から仲の良かった美容師が色紙を用意して自分の来店を待ち構えているって考えたらなんだか寂しくなる。

美容院での待ち時間って不安な気持ちになる。私は忘れられてるんじゃないか。私は後回しでいいと思われてるのだろうか。そんなことを考えていたら涙が出てきた。おやすみなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?