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kono星noHIKARI 第9話


GEMINI &  ORIGINAL Ⅲ    2020.03.30



ニコ「わ、凄いね」

 シークレットルームの前面に広がるモニターを見て感嘆する。

ジェ「ルカ、お前作った!great!」

 すぐ目の前の操作パネルに反応し、操作し始めた。
ジェ「ボク、使い方、知ってるよ。このルーム初めてよ?あれ???」

ルカ「A105(エーファイブ)のニコの記憶は?」

ニコ「地球歴で1860年に日本へ来て、2年後から海外の戦地を転々としている。そして、また1962年に日本に戻り医療行為を始めた」

ルカ「悲惨な戦争を見てきたんだ」

 ジェフがデータを解析プログラムにかける。1993年から1996年まで、東京都秋川市、今のあきる野市の総合病院にいたことが確認できる。波多野正樹と名乗り遺伝子学の研究を行っていた。

ルカ「そのあと、A105のデータは見当たらないね。この病院のことが週刊誌の記事になっている。『医師H』は波多野?」

ニコ「虚偽?インサイダー?何でこんなことに?ジェフ、Topのコアまで行ける?」

ジェ「え?That's not good!」—それはだめだ

ルカ「そのシステムに入らないと探せない。こんなに離れてるからさ、誰もジェフを怒る人もいないし、もし、怒られたら、帰ってからみんなで謝るから」

ジェ「Good idea!」

ニコ「それより、ノアのこと考えて」

ジェ「Oh、sorry」
 ジェフがタッチパネルを操作し丁寧に先へ進めていく。


 MUGENを遠く離れた自分たちの星にダウンロードしているように、この部屋では自分たちの星のデータを引き出せるシステムをルカは作っていた。ジェフの手が止まった。

ジェ「password?ボクの?」

ルカ「違う、コア用のだ。ジェフ!いける?」

ジェ「わかんない」

ルカ「先代の記憶には?」

ジェ「ないよ!」

ニコ「もっと先の記憶は」

ジェ「ん-。ないよ!」

 ジェフが天を仰ぐ。そして椅子に腰かけうなだれる。


ジェ「?」

 突然、ジェフが立ち上がり、頭を手でくしゃくしゃにして抱えた。

ジェ「あ、分かる。え?え?memory、誰の?285字?」

ルカ「そう。285字」

 素早くジェフが入力する。その後も何度かPASSコードの入力があったが、全てクリアした。

ニコ「開いた」

ルカ「『A105』でわかる?」

ジェ「not there」

ニコ「『波多野』で探して」

ジェ「波多野......1996年、航空機の事故。死んでる。延命治療の権威。要人の治療をたくさんしてた」

ニコ「......亡くなってる?いや、建前上だと思う。存在を抹消しなければいけなかったんだ。それ以降に働いている医師は?」

ジェ「ボク達の星のDoctorはno one here」

ニコ「1996年がわかっただけでも十分だよ。コアから抹消されているのか。じゃあMUGENで、この企業の傘下、提携、協力会社、それらの関係する病院のなかで1996年以降に移動、または改めて医師になった人は?そうだ、5年間の幅を設けてみよう」

 ジェフが的確にタグをいれ検索をかける。
ジェ「たくさんよ8000over」

ニコ「どうやって、見ていけばいいんだろう?」

ルカ「まず、一覧にして。ここから、女性を省こう」

ジェ「まだ、5300」

ルカ「医師免許取りたては除こう」

ジェ「4700。いっぱいだよ」

ニコ「この間に日本に関係した医師」

ジェ「?」

ニコ「彼は日本好きだ。日本に暮らしている人でまず、探してみよう」

ジェ「む?2500人なた」

 可視化した一覧をスクロールする。『波多野』として抹消されているのであれば、名前が変わって、目立たないように、ひっそりと医療行為をしているはずだ。そしてニコの推測が合致すれば。この一覧の中にA105はいる。モニターを見つめる。

 じりじりと時間が過ぎていく。



ルカ「え?待って?」

 スクロールが止まる。沢山の医師の中から、ある苗字をルカが見つけた。 ──ソウマ?

ニコ「相馬そうま?」

ジェ「地方のDoctorよ」

ニコ「北国だね。青森の小さな村」

ルカ「ああ、相馬。相馬弘。多分この人だ。奥さんもいて、子供もいるだろ?」

ジェ「子供いる。もうシャカイジン。but子供いたら、ボクたちの星の人じゃないよ。生まれないでしょ」

 ——ああ、そうだ。二つの星の男女間には出生報告はない。確かに夏海は地球人の身体だった。
 ルカがアパートの部屋での夏海を思い出した瞬間、爆発したように顔が『ぼんっ』と赤くなった。

ニコ「ん?どうしたルカ?」

ルカ「いや、な、なんでもない」
 額に手を置こうとしたニコの手を払った。

ルカ「相馬が着任したのは?」

ジェ「1999」

 データには、1990年から海外の医療機関にいて、1999年に日本で採用された事実が記載されている。偽の経歴ではあるが、後半は正しいはずだ。

——夏海は1996年生まれ。いや、実の親子でなくてもいいんだ。

 ルカは、慌てて、シークレットルームを出る。夏海にLINEを送ってみる。既読はつかない。電話をかける。もちろん出ない。仕事中だ。直接、A105には連絡はできない。あらゆるデータが消されてるくらいだ。いきなり連絡しても怪しまれるだけだ。注意しないといけない。シークレットルームに戻る。

 ルカ「待ってて。確認でき次第、連絡する。絶対、A105だと思う。いや、絶対だから。ダニーとリオにも伝えて。ノアのために急ぐから。待ってて。ニコ、待機していて」

 ニコとジェフが唖然とする中、ドアが開くのももどかしく、廊下に飛び出した。
 ルカは自室に行き上着をはおり、出ようとして、マスクをしていないことに気付き、戻りざま、ドアに足の指先をぶつけ、苦しみながら、それでも走ってエレベーターに乗り込んだ。

 夏海が勤める総合病院を目指した。走りつつ携帯を確認するが、既読はつかない。

   燻っていた頭の奥で、パズルの残り1ピースがパチッとはまった気がする。
──絶対、相馬医師がA105だ。

 走った。息が苦しくても走った。交通機関を使うよりは速く着ける。それでも、急いだ。またあの屈託なく笑うノアの顔を絶対見るんだ。その思いしかなかった。

 ほぼ、花弁の散った公園の脇を通り抜ける。総合病院が見えてきた。どうしたら、すぐ夏海に会えるだろう。

 総合窓口に着いた。
 呼吸が整わない内に話し始めた。「看護師の相馬夏海のいとこです。勤務時間と思うのですが、至急、相馬夏海に連絡が取りたい。ここから1番近くに住んでいるのが私なものでして。私の叔父、夏海の父の弘が倒れまして、危ないのです。生きてるうちに伝えたいことがあると。いま、動画が送られてきて。彼女に伝えたいんです」
 名前を聞かれて、グッと詰まったが、ルーカスと名乗った。受け付けもキョトンとしたが、日系のアメリカ人と伝えると、あーはい。と答え、夏海がいるであろう病棟処置室へ連絡を入れ夏海に確認をした。夏海が理解したらしい。直接は会えないが、別棟から入りガラス越しに対面できる場所を教えてくれた。
 あまり待つこともなく、覆われたカーテンの間を縫って医療用防護服、ゴーグルとマスクで顔を纏った夏海が現れた。手には袋に入った夏海の携帯を持っている。

 メモ機能に記入し、夏海に見せる。
 念には念を入れる。Topのコアにもデータがなかった。どれだけ厳密なセキュリティであるかは察しが付く。

〔君はお母さんの連れ子だね?〕
 頷いた。

〔君の今の父は、僕の星の人?〕
 やや、動揺したが、頷いた。

 どんなに切羽詰まった状態か、夏海なら理解してくれると踏んだ。
〔僕たちの仲間が、危ない。体からMINDが離れて、遠いところにいる。FILMも発生しない。そして彼は《original》だ。助けて欲しいと、お父さんに伝えて欲しい〕
 頭を下げてお願いする。

 夏海が頷いた。
 ルカの携帯を指さし、そこに連絡を入れるとジェスチャーをした。

〔ありがとう。頑張って!〕
 ルカは踵を返し、ビルへ急いだ。

 シークレットルームとシールドされたオフィスには外からの意識は届かない。
 ルーム内のシステムに携帯から入れるよう操作し、
〔相馬医師から連絡が入るから、対応してほしい〕
 と記号で入力し、公園の樹の下を駆け抜けた。

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