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kono星noHIKARI 第18話

BETRAYER Ⅱ       2020.08.25


リオ「あれ?ジェフは?」
 昼食の準備をしているルカに聞く。

ルカ「うん?知らないよ。リオも知らないの?」

リオ「ルカも?昨日の午後は、ジェフに会ってないよね。ダニーは知ってるかな?」

ルカ「いや、シークレットルームから出てないから、知らないと思うけど、一応、聞いてみたら?俺はここで食べるから、これ持っていきなよ」
 と、大皿に盛り付けた2人分の大きなオムライスと取り皿、スープの入った2個のカップとスプーンをお盆の上にのせて、リオに渡した。

リオ「ルカありがと」
 喜んでシークレットルームに向かう。

リオ「ダニー、お昼ご飯だよ」

 リオの声に驚いてダニーが振り返る。
ダニ「あれ?ルカは?」

リオ「オフィスで食べるって。僕にここで食べなよって、持たせてくれた」
と、ダニーの隣にすわる。
ダニ「そうなんだ」

リオ「進捗はどお?」

ダニ「ノアがいた南の海の星の位置と季節から推測して、地球上のどこなのか、どのくらい先なのか、分かりかけている」

リオ「ほんと?良かった!」

ダニ「もっと詳しく特定しないと、ノアを連れ戻すことは出来ない」

リオ「そう...これが彗星の軌道?画面からはみ出てるじゃん」
 モニタを仰ぐ。

ダニ「途方もない軌道だよ」

リオ「これを計算するって。すごいね」

ダニ「ルカがいるからできるんだよ」

リオ「2人ともすごいよ」

ダニ「途中で、他の強い恒星やブラックホールの影響を受けると、彗星の表面が欠けたりして質量の変化が起こるんだ。これで微妙な軌道のズレが生じる。これが移動する間に大きな誤差になるんだ。難しいよ」

リオ「お願い。ダニー、諦めないで」

ダニ「分かってる」

リオ「この彗星──」
──どこかで見たような気がする。そんなことあるはずないのに。


リオ「あ、そうだ。ねえ、ダニー。ジェフといつ会った?」

ダニ「いつって?」

リオ「僕、昨日の昼前から見てないんだ」

ダニ「俺は、俺もかな。昨日の朝ご飯作ってくれた」

リオ「そうだよね。ニコニコしてて、アキちゃんと会うの?って聞いたら、頷いてたから、デートだよ。でも、デートで帰らないこと無かったよね」

ダニ「まあ、俺らがとやかく言うことじゃないけどね。ジェフが苦しんでる今、幸せになれる時間があるなら、それでいいよ──寂しい?」

リオ「そんなんじゃないよ。すごく外、暑いしさ。大丈夫かなって」

ダニ「んー?んふふふっ」

リオ「もう!やめて。食べよう。ルカのオムライス美味しいよ」

 リオはダニーが新しいTシャツとジーンズを身につけているのが嬉しい。ぺいさんと一緒に見立てた白いTシャツだ。が、モニタに気を取られながら食べているダニーのスプーンからケチャップの乗ったオムライスがポロリと白いTシャツに落ちた。
ダニ「あ」

リオ「何やってんだよ!ダニー!脱いでよ、もう!」
乱暴にダニーからシャツを剥がし、上半身裸のダニーを残し自分の部屋へシャツを持ってバタバタかけて行った。


 8月の初め、結局、Topからの情報は得られないまま、ニコはルカに後を頼んで、相馬のいる青森に向かうことにした。待っている時間が勿体ないのだ。

 ノアを助けた相馬が、先にひとり青森へ戻ってから、ニコはオフィスで相馬とビデオ通話をよくしていた。ノアの状態を報告する為だったが、通話中に映る相馬の家のペットの犬や猫を見て、ノアも行くと言い始めた。
 確かに、ニコや相馬にとってノアが手の届く場所にいることは安心ではある。しかし、いきなり時空軸を越えられたら、対処のしようがない。ノアを助けるには、MINDが離れる前に、身体ごと未来のあの海へ装置を使ってTRANSさせるしか無い。それが出来るのはこのビルだ。相馬は、その時期はすぐには来ないはずだと言う。時空軸を越えるには、膨大なエネルギーが必要だからだ。ノアを飛ばしたエネルギーは作られた物では無いようだが、それでも、次に向けてのエネルギーを溜める為にかなりの時間が必要となる。相馬の言葉を信じて、ふたりは青森へ向かった。

 青森に行ったノアからほぼ毎日のようにビデオ通話が入る。相馬家のペットたちにびったりとくっつかれながら、うれしそうなノアが近況を教えてくれる。ニコも元気だよと必ず付け加える。リオと話し終わると、必ずジェフに代わり同じことを話している。
 今日もノアから「ジェフは?」と聞かれ、「デートみたいよ」とリオが答えたが、「え?居るって言ってたのに」と首を傾げ不思議そうにしている。ジェフは決めたことを守らない事はない。



 Topからのデータを諦めてニコが青森へ行くと決断したのは、ある決定的なことが起こったからだ。


     ◇


 皆がオフィスにいた時に、コンビニのアキちゃんの話しが出て、ジェフが赤くなって照れていた。その姿を見て、ニコの苛立ちが限界に達した。

ニコ「ジェフ、何してるの?Topのデータがないって、なんだよ。エリートなんじゃないの?ノアを行方不明にするために来たの?それで、よく、僕らの星を、KPnsを守ってるなんて言うよね。ひとりが犠牲になれば、それでいいの?そうやって、今まで何人を行方不明にしたんだよ。何とか探してよ。ノアの前に時空越えた人、教えてよ!」
 とジェフの胸ぐらを掴んで詰め寄ってしまった。

ジェ「まって、ニコ。Really don't know. ボク、report every day! Saying I want data. sorry...I think everyone is important...」
 ジェフはうなだれた。

 感情を露わにするニコを見たのは、ノアの心臓が止まった時以来だ。 ニコはジェフから離した手をディスクに打ち下ろし、オフィスを出ていった。

 呆然と立っていたジェフも少ししてオフィスを静かに出ていった。

 皆が、勿論、どちらの気持ちも分かっている。だから、声をかけることもできず、4人はソファーに座り込んだ。

 
ダニ「役人だからしかたないんだよ。星を守る為に生産され、育てられたんだ。そして、脈々と記憶とスペックが受け継がれる。ジェフも何代目かのgeminiだ。要らない記憶はインプットされない。僕らの星にいるだけなら、それで良かったんだ」

ルカ「この地球がジェフを、目覚めさせたんだ」
 苦しそうに呟く。

 ダニーがテーブルの上にあるジェフ用の大きなマグカップを見つめながら、続ける。
ダニ「この星にTRANSするメンバーにジェフがいるって知らされた時から、予感はあった。何かあるなって。でも、ジェフ本人が疑問に思うことは一切なかっただろう。Topで教育をされてきてるからね。この星で、たくさんの人と関わって、長い時間過ごして、自分の存在に疑問が湧いてきたんだ。他の役人だったら何も感じないまま、ノアを送り出して任務終了だったろうね。ジェフは他の役人より、どこか感性が豊かなんだ。...苦しんでると思う」

リオ「ノアは僕たちより後にこの星に来たよね?ジェフはノアが来ることを知っていたってこと?」

ダニ「いや、ノアの存在は知っていたみたいだけど、ノアが来ることもGalaxy body clock(宇宙時間)の話も本当に初めて聞いた様子だったよ」

ルカ「ここに俺が拠点を造らされたのも、ノアを送り出すためなんだろか」

ダニ「それだけじゃない。違う気がする。俺たちの星KPnsは地球より先に彗星のダメージを受ける。ノアのおかげで、KPnsが無事だったら良いけど、もし、違ったら。ノアごめん。これは仮定の話だからね。落ち着いて聞いてね。もし、KPnsが救えないとなったら、この星に移住しようとしているんじゃないか。と──」

リオ「侵略ってこと?」

ダニ「仮説だよ」

ノア「考えられるよね。だって、この星は、憧れじゃん」

ルカ「俺たちの遺伝子はこの星の人を模倣した物だし、俺たちの体の中にこの地球がある」

ノア「そうなのよ。オレ、小さい時から知らないはずのこの地球の夢を見てたもん」

ダニ「少人数なら、ひっそりと、今の俺たちのように暮らせるけど......星全体の人数となると......」

ルカ「尋常じゃないな」

リオ「宇宙戦争とか、始まらないよね?」

ダニ「考えたくはないけれどね......でも、移住したとしてもこの地球も消える可能性があるんだが」

ルカ「Galaxy body clockを持つ、第二のノアの出現を待つのだろうか」

リオ「でもさ、新しい世代はTRANSができない人が多いってジェフ言ってたよ。この星に来れない人も出てくる」

ルカ「新しい世代は生き残るための篩にかけられるのか.......」



ノア「んー。ま、俺が成功させればいいってことよね!」

ルカ「なんだ、頼もしいな」

ノア「あのさ、オレも考えてたんだけどさ、オレが時間軸を越えたあの日。本当はあの日のあの時がXdayだったのかもしれないって思ってるんだ」

リオ「何で?」

ノア「だってさ、あんな遠くにMINDが飛ばされて、あんなに流れ星が降っていて、どれか1~2個落ちても、おかしくなかったくらいだよ。あのちっちゃい子も来ていて、その場であれ?違うよね?なんて、変じゃん」

ルカ「何かが、どこかが、ズレた?」

ダニ「ずっと、そこが気になってる。彗星の軌道かな?ズレなければ、ジェフも時間をかけずに、任務完了できるはずだったんだ。ノアは最初からあの日がこの星へのTRANSの予定日だったの?」

ノア「そこは分かんない。でもずっとオレを診てくれてたニコのTRANSが決まったから、オレもって感じ。オレ、originalだから無理だと思ってたけどね」

ルカ「ダニーもリオもGalaxy body clockを持ってないよね?」

ダニ・リオ「ないない」

ルカ「Topも何らかの彗星のズレが生じたから、俺たちの様子を伺っているのかもれない」

 全て、仮説ではあるが、可能性はゼロではない。4人は押し黙り考え込んだ。


 ひと息付くようにリオがノアに話しかける。
リオ「あ、さっき言ってたXdayってどゆことなの?」

ノア「Xday!って言い方、格好よくない?SF映画みたいでさ。で、俺が主人公!」
 と口角をあげ、ニヤリとする。

リオ「うふふふ。ノアが名付けたんだ。採用してあげる」

ノア「もちろんっしょ」

 少し緊張が和らぐ。想像がつかないほどの恐怖とずっと闘っているはずのノアに支えられているのは自分たちだと、改めて3人は感じていた。

 この後、ニコはジェフとは会わずに、気まずいままノアを連れて青森に発った。

     ◇



 洗面台でシャツのケチャップを洗い流しながら、リオはジェフを思った。やはり、ジェフのMINDや意識が感じられない。いつも鬱陶しいくらいに感じていたものが無くなると、やはり寂しいし、心配になる。昨日の昼過ぎからプツリと途絶えた。
 ──アキちゃんと会ってるなら、連絡は迷惑だよな。ジェフは僕には辛い胸の内を語ってくれなかった。僕は、何のインプットもされてないから分からないもんな。ジェフはたくさんインプットされたものが頭に詰まっている。それも大変なんだろうな。そしてある時、いきなり知らない指令が頭の中に出てくる。そんなことがあったら僕は耐えられるだろうか。自分の意図していないことをしなきゃいけなくなったら、僕はどうするだろう。ダニーが言うように、今、ジェフにアキちゃんがいて良かった。少しでも楽しい時間を一緒に過ごしてるんなら、それでいいや。

 リオはジャブジャブとケチャップと格闘した。

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