月光の味

ノットリズム派絵画物語Ⅴ 水源の秘密

ロンドン燕は卵の中心に突っこんでいった。考える暇もなく。からだは燕のの意識よりも先に知っているようだった。嘴の先に張りつめた卵の膜が触れた時「ぷつっ」と小さな音がした。つぎの瞬間からだの中に卵黄がなだれこんできた。
卵は体内で無数に分裂しはじめた。鈴なりにものすごい勢いで増えていく。強烈な振動だ。ぶるぶると震え充満する。からだが張り裂けそうだ。ああ、もうだめだ。これ以上増えたらほんとうに張り裂けてしまう。腹の皮が薄くなり無数の筋が現れる。内臓が透け見える。いや、内臓じゃない。白く黄色く光るこれはすべて卵だ。「ぷつっ」とうとうからだの中心から卵黄がはじけだした。「ぷつぷつぷつ」破裂音が激しく水源に響く。
弾けるごとに卵黄は流れを生んだ。最後の一つが弾ける頃には強烈なうねりとなっていた。どろどろとうごめき濃厚な黄が熱く体温を突き上げる。温度はさらに増していき黄は朱へ、朱は深紅へと変っていく。
ああマントルの流れだ。ロンドン燕の網膜は赤いメッセンジャーボトルのガラスのように真っ赤だった。
燕は思う。「今からこのひんやりとした水源へ新しい月の卵を運ぶのだ。」




乗っ取り前の納豆パレット。回転無し使用。

Nursery Cryme - Genesis


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