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If you don't mind, I'll take it here.

私のバイト先のパン屋さんでは、
いろいろな個性を持ったお客さんが来る。
先に伝えておきたいのが・・
お客様!来てくださってありがとうございます!という感謝の気持ちを述べておきます。
…いや、完全に、今からディスる気マンマンな前置きをお許しください。と、言うのが正しいかもしれない。

さて、本編へ。

パン屋に1組の夫婦がはいってきた。
そして間もなくして、もう1組の夫婦が入ってきた。
私は、レジから離れた作業場で、お客さんに「いらっしゃいませ」と声をかけながら粉計量をしてた。だいたいは、その状況を第3の目で、フロアにいるお客さんがトレーを持って選んでいる様子が分かるのだけど、数分経過しても、動いている気配がない。
どうした?と顔をあげてフロアを見ると…。
そこはカオス。
トレーも持たずに2組の夫婦が絵画を見ているかのように、何の会話もせずに、並んでいるパンと焼き菓子をみつめている。
時折に小さな声で会話をしているのか、耳を傾けあっているような様子もみられる。
そもそも、この2組は知り合いか?何が起きてる?

え?ここはどこ?
続く無言な状況に一瞬、自分がどこで働いているのかさえも混乱してしまうほどの空気。
レジに立っているオーナーの子は、この状況をどう見ているんだ?気まずいだろうな…と思ったら笑えてきた。
いや、私は隠れてひと笑いしてしまった。
 
・・・夫婦はまだパンを眺めている。

お願いだ!トレーとトングを持って、パンを取るという作業を、本当にお願いだから早くして下さい。私はもう、いよいよ声を出して笑ってしまいそうだ。

なんて願ってたら、動き始めたので安心した。
こんなに悩んでたのは、お土産にたくさん買うのだと思ったが、トレーに乗っているのは4つ。
はい、今日と明日の朝のパンですね。
悩みましたね。。と言いたくなるのを後ろで堪えた。

「ありがとうございました」
・・・と2組の夫婦を見送り、

不思議な絵画展は終わった。

浅黒く焼けた肌の奥様に、ひょろりとした旦那さん。か細い夫婦だけど、畑でもやっているのかと思わせる。
きっと普段は、自然派です!という夫婦が、よし!今日はチートデイってやつだ!グルテンを摂るぞ!と意気込んで来店したのは良いが、パンを目の前にして芸術だと感動したのか・・・

・・タラタラ・・タラタラ
と、勝手に想像して、オーナーと腹がよじれるまで笑い、最後は新種の人間だとカテゴリーして収めてしまわないと気が済まないほど、不思議な夫婦だった。

パン屋にはいろいろな人が来る。
外国人パパが赤ちゃんを抱っこしてきた。
レジ対応はオーナーの子だ。
手が塞がっているパパさんに、日本語で「取りますね」と声をかけた。
ここ沖縄では、時に外国人が来店することも日常にある。
英語で何と声をかけたら良かったのか、お客さんが帰った後に、調べてみた。

If you don't mind, I'll take it here.

あの夫婦にも声をかけることが出来たら、
カオスな空気も変わったのかもしれない。

日本語で、

「よろしければ、こちらでお取りします」

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