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親子で博多華丸大吉さんに惚れた話

はじめてルミネtheよしもとで、漫才を見た。

新宿末廣亭へナイツを見に行ったくらいで、お笑いライブへ足を運んだことはほとんどなく、実はM-1すらちゃんとみたことはない。それくらい私はお笑いに疎い。というか、恥ずかしながらその魅力をちゃんと知らなかった。

そんな私が、生で漫才をみて、博多華丸大吉さんに射抜かれ、すっかり虜になってしまった。ふたりのことを思い出すだけで、心がほくほく、元気が湧いてくる。

その前日、私は夢の国こと東京ディズニーランドにいた。1歳8ヶ月の孫が喜ぶ姿が見たくて、ばあばが数ヶ月前から有給を取りチケットを片手に上京、満を持してその日はやってきた。娘と母と妹と、夕方からは父と従姉妹も合流し、普段ほぼワンオペ核家族の私にはありがたい、子ども1人に対して大人5人という布陣。ミッキーとミニーに心を躍らせる娘に心を躍らせる大人たち。パレードでもアトラクションでも、ばあばとじいじの視線は、世界のリアルミッキーではなく我が家のリトルミニーに惜しみなく注がれていた。

10kgを超える娘を抱っこ紐に入れて、金曜朝の通勤ラッシュに身体を押し込み、開園から閉園まで13時間歩き回ってみっちり夢の国を堪能し、華金で賑わう車両に身を潜め、帰宅した頃にはそりゃあもう力尽きてヘトヘトのクタクタよ。糸が切れた操り人形さながらぶっ倒れるように眠り、目覚めた朝も疲れはとれず頭がボッーっと身体がだるい母ちゃんの現実はなかなか厳しい。それでも、娘の笑顔のためならば!くぅーっ

そんな状態で向かったルミネtheよしもと午前の部。昨日の疲れからか移動中も抱っこ紐の中で寝息を立てていた娘は会場到着と同時に目覚める。寝ていてほしかった。

まだ夢の国の続きにいる娘は、席に着き、赤い緞帳を前に「ミッキーくるかな?」と声を弾ませている。そうだよね、昨日はシルバーのきらめく幕が上がった瞬間、ミッキー出てきたもんね。

赤い緞帳が開き、客席のライトが落とされ、明るい音楽とともに登場したのは、もちろんミッキーではなく、ミキ。

ぽかんと口を開けて固まり、どうやら目の前の現実を受け止められない様子の娘。それでも暗くなって音楽が流れるたびに「ミニーちゃんくるかな?」「誰かな?」と希望を捨てない。娘よ、ここは夢の国ではないぞ。

途中、ゆりやんが流したジブリの曲に身体を揺らしたり、もう中学生がすいぞくかんの絵が描かれたダンボールを立てた際に「さかな!」「いるか!」と指をさして声をあげたり、カエルに似ていると言われるおかずクラブのオカリナさんが唱えた「カエルの合唱」を口ずさんだり。そんな場面もあったけれど、基本的に娘の表情は浮かない。

イヤイヤ期直前の動きたい盛り1歳8ヶ月の娘が大人しく漫才を聞けるかどうか、私はずっと内心ドキドキソワソワ。生の漫才はテレビでみるより数倍面白いのだけれど、気を揉んで、いまいちその世界にどっぷり浸れないような緊張感があった。

開始から45分。次第にここが夢の国ではないことに気づいた娘は身体をくねらせ、さすがに飽きてきてごまかしが効かなくなりつつある。気分を紛らわすために持参したお菓子やパンも底をつく。いよいよ限界か……?

お笑いに親しくない私の今回のお目当ては、トリを飾るであろう、あさイチでお馴染み博多華丸大吉さん。私は彼らを見たい一心であの手この手でここまで娘をあやし続けてきたのだ。どうか、華大さんを一目でも……!(合唱)

そして、ついにふたりは舞台に現れた。パステルピンクとパステルブルーのド派手な衣装に身を包んで。世間を騒がす不穏な空気さえも吹っ飛ばす勢いのぶっ飛んだきらびやかさ。ちょうど今、反社会的勢力との関係によって吉本興業の芸人さんが続々と謹慎処分を受けている。その日の朝のニュースでも長い尺でセンセーショナルに取り上げられていた。娘の機嫌に気を揉む私だけでなく、登場する芸人さんにもお客さんにもどこかいつもとは違う緊張感があったのかもしれない。

華大さんは登場するやいなや、タブー視するようにそれまで一切誰も触れなかったその件にさらりと触れ「緊張します」と吐露し、笑いをさそう。その後も、仲睦まじいふたりの、正直で、誠実で、ユーモアたっぷり、流れるようにテンポの良い掛け合いが心地よくて、面白くて、声を上げて笑った。

一方、娘はいよいよ我慢の糸が切れ、ついに、「いやーーーっ」と大きな声を上げた。私が「しーっ!」と娘の口を抑えようとした瞬間、大吉さんが「いやーっという声も聞こえましたのでね」といった感じでネタの流れの絶妙なタイミングで娘の声を拾ってくれた。なんてこった!!!奇しくも、ネタは御多分に洩れず娘も大好き「おかあさんといっしょ」のパロディ。「ちびっこの声」として、娘を巻き込んで、ぐずり声を笑いに変えてくれたのだ。

「これがライブか!これがプロか!」と感激していると、すかさず定員さんが横へきてしゃがみ込み「席を立っていただいても大丈夫なので」と一言。優しく丁寧な言葉だけれどこれはつまり「他のお客様のご迷惑にならないよう退出してください」という意味だよなあ、どきっ。ちくっ。

最初からその覚悟はあって、一番隅の席に座っていたので、ここは潔く立つかと思った瞬間、大吉さんがステージ上からまた「あと少しだから、ここまできたら、最後まで聞いていってね」と声をかけてくれて、華丸さんが「次は指遊びだから。わかるかな?」と言って、娘の方を向いて、ネタを披露してくれたのだ。

その「指遊び」も「パジャマでおじゃま」も、さいっっっっこうに面白くて、私は心の底から大爆笑!!!!こんなにも腹をよじって笑うのはいつぶりだろう。笑いの力は偉大だ。疲れも吹っ飛ぶよう。終盤、会場には爆笑の渦が巻き起こり、娘の声なんて一切気にならなくなっていた。いつしか娘もぐずり声ではなく、楽しそうに手を合わせている。

大吉さん、華丸さん、娘に、私に、居場所をつくってくれてありがとう!!!大爆笑と嬉しい気持ちが溢れて、胸が熱くなり、泣いた。

我慢を知らず溢れんばかりの体力と好奇心を爆発させる幼い子どもと一緒に、いわゆる「子ども大歓迎」ではない場所に行く時、親である私には緊張が走る。「子どもが騒いで迷惑をかけてしまうから」出かけるのも億劫になって足が遠のくし、出かけたとしても気を張って疲れるし、子どもの好奇心の芽を潰してしまったり、不必要な怒りをぶつけてしまったり。子どもや世間に対する罪悪感や不安が渦巻いて、せっかくその場にいるのに心底楽しめない場合もしばしば。直接舌打ちされたり暴言を吐かれることがなかったとしても、勝手に視線を感じてしまうこともある。

今回のルミネthe よしもとだって、そうなりかねなかった。大吉さんと華丸さんは、そんな私の緊張を解いてくれて、当たり前のように「ここにいていいよ」と言ってくれて、娘を一人のお客さんとして楽しませてくれた。極上のネタの面白さはもちろん、その優しさと寛容さ、誠実でユーモアが光る人柄に、それはもう、惚れに惚れた。

ふたりのおかげで、娘と私にとって、本当に華丸で大吉な忘れられない日になった。そこはディズニー以上に夢の国だったし、ふたりはミッキー以上に輝くスターだ。娘はまだそのことに気づいていないかもしれないけれど。

これからは、娘と一緒に「おかあさんといっしょ」ではなく「あさイチ」を観ようと思うし(朝ドラからのあさイチ派だった私は、最近娘に負けてBSで朝ドラを見てからはEテレにチャンネルを合わせていた)、ディズニーではなく、博多華丸大吉さんのライブを見に行こうと思う。ファンとしてちゃんとお金を落としたい。

お、さっそくオススメ公演が。子連れで行ってもいいですか?

博多でもつ鍋も食べたいな!

トップの写真提供:福岡市

読んでくださりありがとうございます。とても嬉しいです。スキのお礼に出てくるのは、私の好きなおやつです。