見出し画像

おばあちゃんの朝採りきゅうり。

先日、愛知の実家から妹が上京する際、お願いしておばあちゃんが畑で育てた朝採りのきゅうりを持ってきてもらった。

「腕に跡がついちゃったよ〜」とプチ文句を言いながら、手渡されたビニール袋のなかには、きゅうりが20本近く入っていた。

うわあああ、不揃いだけれど見るからに美味しそうなきゅうりに我慢ができず、朝から味噌をつけて3本ほど丸かじり。甘い! 私はこれが食べたかったのだ。

その後、「東京で美味しいものを食べたい」という妹のリクエストに応えるため、最近千葉に引っ越してきた従姉妹も誘って、代々木上原へ向かい、Pathでランチをして、Camelback sandwich&espresso でサンドイッチを食べて、神谷町のSOWAでアイスを頬張り、お腹と心を満たした。

 Pahtのブラータと生ハムのパンケーキと、とうもろこしのスープ。

帰宅した私たちは「野菜が足りない!」と、おばあちゃんのきゅうりを叩いて、みょうがを刻んで、塩昆布をふりかけて、ごま油をたらして、ぼりぼり食べた。梅干しと和えたり、鰹節をかけたり、少しずつ味を変えて、結局一気に、10本以上のきゅうりを食べた。20本ほどあったきゅうりはあっという間に残り3本に。採りたてのきゅうりはやっぱり美味しい。

東京ではなかなか味わえないけれど、実家ではこの味が当たり前のようにあった。

おばあちゃんは趣味として、昔から家の裏にある小さな畑で野菜を育てている。春はキャベツに玉ねぎ、スナップエンドウ、夏はトマトにきゅうり、とうもろこしに枝豆、秋はさつまいも、冬は白菜やブロッコリー。実家の食卓にはいつも畑から採りたての旬の野菜がどかん!と並ぶ。季節の野菜は味付けをしなくても、蒸すだけ、茹でるだけ、あるいはそのままで十分美味しい。

夏の野菜たち。おやつとして、もりもり食べる。

「おばあちゃん、きゅうりー(その時旬の野菜)」小学校、中学校、高校。帰宅すると私はそう声をかけて、おやつとして採りたての野菜を頬張った。たとえばきゅうりなら3〜5本、ブロッコリーなら、ひとりで二房はぺろり。おばあちゃんの野菜は今も昔も私の好物のひとつなのだ。

「おばあちゃん、きゅうりー」のかけ声を聞いて現れたおばあちゃん

幼い頃からおばあちゃんの野菜を食べ慣れていたから、大学で上京したばかりの頃、野菜の味に疑問符を浮かべたことが何度もある。大学のサークルの新人歓迎会、渋谷のダーツバーのようなお店でサラダを食べたときの衝撃は今も忘れない。きらびやかな世界に興奮と戸惑いを覚えつつ、ニコニコ笑顔を振りまきながら、私は口に含んだブロッコリーがどうしても飲み込めず、こっそり近くの紙ナプキンに包んでポケットに詰め込んだ。

(なんじゃこりゃ、ブロッコリー、じゃない……)※心の声

どうでもいいことだけれど、どうしても食べられない物をポケットに潜めて持ち帰ったのは、保育園以来二度目だということを思い出してしまった。

そうそう、一度目は保育園の給食で出た子持ちししゃもの唐揚げ。好き嫌いがあまりに多かった私は、給食がほとんど食べられなかった。小学校入学を目前にした年長クラスでは、好き嫌いを克服するため、一口でも食べないと片付けられなかった。みんながお昼寝をしている教室の片隅、黒いカーテンと光の入る窓の間で私はひとりししゃもをじっと見つめ、お昼寝の時間が終わる頃、その一匹をポケットのなかに入れた(食べたことにした)。

幼い頃好き嫌いが多かった私は、大人になってそのほとんどを克服し、今では自分でもそんな時代があったことが信じられないくらいの食いしん坊だけれど、ポケットに詰め込んだ「冷凍ブロッコリー」と「子持ちししゃも」だけは今でも苦手(まあ、滅多に食べる機会はないんだけれど)。味の問題というより、苦い記憶に結びついているからだと思う。

「美味しさ」も味だけじゃなくて、誰と、どんな状況で食べたかによって変わってくる。部活帰りに友人と頬張った牛丼とソフトクリーム、親友たちと4人で会うときに欠かせない高校時代から通うケーキ屋さんのさつま芋と洋梨のタルト。旅好きの先輩と屋久島で遭難しかけたときに口に含んだひとつぶの黒砂糖。同じ店によく行くという共通点で大人になってからできた友だちと朝まで飲むヴァン・ナチュール。共にした誰かの顔と結びついてさまざまな味の記憶が蘇ってくる。

おばあちゃんの野菜を食べて育った私は、その味を記憶していて、季節が巡るたびにやっぱり恋しくなる。夏が来て暑くなれば、「おばあちゃんのきゅうり」が無性に食べたくなるのだ。まさに今、畑から採ってきたばかりの太陽を浴びた甘いきゅうりを丸かじりしたい! 

ありがたいことに、東京で暮らしていても、愛知や愛媛の実家から野菜の定期便が届く。朝採り!ではないけれど(どんなにがんばっても翌日)、野菜を育てる義父やおばあちゃんの顔が浮かび、やっぱり美味しい。

なぜかPixivのTシャツをパジャマにしているおばあちゃんを思い出した

80歳を超えるおばあちゃんのきゅうりはあと何回食べられるだろう。10ヶ月の娘にも採りたてのおばあちゃんの野菜を食べさせたい。それだけのために、実家へ帰ろうかな。#平成最後の夏 が終わらないうちに。






読んでくださりありがとうございます。とても嬉しいです。スキのお礼に出てくるのは、私の好きなおやつです。