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自分で「自分を満たす」ことからはじめよっと

娘が生まれて働き始めてから、仕事と子育て、目の前のやらなければならないことに追われて、やりたいこと迷子になっていた。「今」しか見えなくて、未来に霧がかかっているような。どう考えても娘の命を守ることが最優先で、今は仕方ないと思いながらも、仕事にアクセルを踏み切れず、小さなインターネットの世界で他の誰かの活躍を横目に、勝手に焦って勝手に落ち込んで。夫は出張が多くほぼ不在で実家も遠く、フリーランスの仕事は締め切りも取材もずらせない。子育ても仕事も代わりがいないと思い込んでプレッシャーを感じていたためか、ずっと疲れが取れずに身体が重たい感じがした。

休日もちゃんと「休めて」なかった。基本娘とふたりなのでなるべく家にいないよう、同世代の子どもがいる友人と遊びに出かけたり、旅行したり、愛知や愛媛の実家に帰ったり、夫の仕事場を訪ねたり、スケジュールを埋めて出かけることが多かった。でも絶賛イヤイヤ期の子どもを連れての移動は気力も体力も使う。予定を立てても予定通りにいかないことばかり。楽しかった!けれど、週明けは身体がどっと疲れ頭がぼーっとすることもあった。そんな中、保育園の先生に、娘が「週末明け、いつも疲れていますねえ」と言われてハッとした。娘も私も休日にちゃんと「休めて」いなかったことに。

さらに、気づいた。娘が生まれてこのかた、目の前の子育てをどうするか、仕事をどうするか、ばかりに心を砕いて、「自分を満たす」ことがすっかり抜け落ちてしまっていたことに。

子どもが生まれる前は、当たり前のようにしていた、というか、やらずにはいられなかったことも、知らず知らずのうちに、心のどこかで仕方ないとあきらめてしまっていた。やろうと思えば、できたことなのに。

たとえば、気の置けない友人と美味しい食事とお酒を囲んでおしゃべりをすること、劇場で映画を観ること、長編小説を読むこと、好きな服を着ること、好きな色に爪を塗ること……。そんなこと!?と思うかもしれないけれど、そんなささいなことも含めて、母や妻、働く私でない自分の気持ちを置き去りに、というか忘れてしまっていたのだ。

娘が2歳になって自分の足で立って歩き、言葉を習得して意思疎通ができるようになったこと、家事育児を自分だけでやろうとせず人に頼ることを覚えたこと、ある程度の基準を決めて断る勇気を持って仕事を調整したこと……私自身の試行錯誤と気づき、周囲の人の助けや色んなタイミングが重なって、ほんの少し心に余裕ができたこともあり、これまで娘にばかり向いていた矢印を少し自分に向けてみた。

具体的には、この10月は“自分を満たす月刊”として、ささやかな「やりたい」に蓋をせずに、行動することにした。たとえば……

妊娠前に買ったお気に入りのワンピースを着てヒールを履いて(基本妊娠中に買ったゆるゆるワンピとスニーカーで過ごしていたわ!)、BRUTUSで取材した資生堂FAROで贅沢コースランチをゆっっっくり食べて(五感が刺激されて圧倒的感動!)、大好きな友人と子どもではなく自分たちの話をした(子連れで集まると話題は子育てが中心で会話が途切れがち)。

同期のような同業の友人と浅草橋FUJIMARUで、自分たちの仕事に対する、将来の不安や迷い、希望や野望を、酔っ払って饒舌に語り合った。途中で娘も合流して我が家で、計7時間以上喋り続けたのに、それでもまだ足りないくらい。曖昧なことを曖昧なままに、複雑な感情も、言葉にして誰かにぶつけると、気持ちが整理されて、白黒はっきりしなくたってスッキリする。フリーランスで自宅で仕事をしていると、一人で悶々と同じ問いを繰り返してしまうことが多々ある。信頼できる人との「雑談」は私にとって必要不可欠なのだ。もっと大人としゃべりたいんだ、私は(たどたどしい娘との会話も好きだけどね)。

それから、川上未映子の『夏物語』を読んで(仕事柄本は読んでいるのだけれど500ページ超えの長編小説一気読みは久しぶり)、是枝監督の最新作『真実』を観て(『万引き家族』ぶり、産後3回目の劇場!)、好きなブランドの服を試着してワンピースを買って(子連れだと試着してゆっくり買い物は難しい)、爪を赤く塗って(なんと3年ぶりくらいのネイル!)、喧騒を離れた虎屋茶寮でゆっくり和菓子を食べた(もちろん娘にもお土産を買ったよ)。

自分の健康にも目を向けて、乳がん検診にも行ったし、腹筋も始めたし、プールに泳ぎに行った。

休日、娘はYoutuebeでしまじろうを、私はNetflixでテラスハウスを観て、お互い好きな曲をかけて歌って踊って、散歩してパンとおやつを買って、自宅付近で特に何もせずにダラダラ過ごして、休んだ(ちなみに夫は相変わらず忙しすぎる)。

するとどうだろう。こう書いてみるとわざわざ書く必要もないくらいささやかな、他の誰かにとってはそんなこと!?と思うようなことでも私にとって自分を満たすための行動を重ねただけで、むくむくと「やりたい」気持ちが泉のように湧いてきた。

なんだか、ようやく、心の靄が晴れた!!!気さえする。自分でも「オマエ単純すぎるだろ」「もっと早くやれよ」とツッコミたくなるけれど。でも、ここ2年間ほどこれらのことをするのに思い込みとハードルがあって、私は久しぶりに心が踊った。そして気持ちが前に向いて仕事に対しても、家族に対しても、どこかで「やらなきゃ」と思っていたものが、「やりたい」に変わっていくよう。今ならやりたいこと100個書けるかも。この感覚、久しぶり!! 実際に私はその夜、胸が高まって頭が冴えちゃって眠れず(笑)、無印のノートにこれからやりたいことを書きなぐった。

自分のコップを満たさないと、娘にも人にも優しくできないし、無駄に他の誰かに目が向いちゃって、「やりたい」ことにも、未来にも、心が向かないんだな。自分で自分を満たすことからはじめよう。娘はもちろん大事だけれど、自分も大事にしないと。うん。

そのことに気づいて腑に落ちたのは、編集者・ライターという仕事の影響も大きい。自分の問いを発端に企画を立てて、人に話を聞いて、考えながら、書いてまとめて、コンテンツにする。その過程で、私はたくさんの学びを得ることができる。なんていい仕事なんだ。私はこの仕事がやっぱり好きだ。本を書いて以来、依頼された仕事を受けること多く、自分からあまり前のめりに企画ができていなかったのだけれど、仕事でも、もっと自分の「やりたい」や「好き」を大事にしていこっと。

家族と仕事、だけでなく、個人の自由と、それから健康。欲張りなのか、中途半端なのかはわからない。けど、私はやっぱり全部大事にしたい。バランスを取るのは難しいけれど、その都度優先順位をつけながら、家族と笑い合える豊かな時間を過ごすこと、娘にたくさんの愛情を伝えること、好きな人といい仕事をすること、友人たちと遊ぶこと、自分を自分で満たすこと、ちゃんと心と体を休めること、できる限り何かをないがしろにせずに、自分のペースで、やっていこうと思う。焦らず、少しずつね。



ついでに、思い出したので告知しちゃうと、本の出版記念にかこつけて、友人たちとイベントを開きます。家族のことも、仕事も個人の自由も、行き詰まった時は一人で、家族の中だけで、解決しようとしないで、誰かに相談したり、オープンな場で話した方が視界が開けることもあるのではないかな、と思って。同じような悩みを抱える人、興味のある方はもしよかったら。

出版記念イベント、千駄木往来堂書店でも開催します。

産後のイベント登壇、いや、参加すらすごく久しぶり。友人たちの話を聞けること、懐かしい人や新たな人たちと出会えることを楽しみに。ふふふ。


読んでくださりありがとうございます。とても嬉しいです。スキのお礼に出てくるのは、私の好きなおやつです。